「NEWS ZERO」のキャスターを2年半前に退任し、現在は大学の授業のほか、若者たちと意見交換を重ねる日々だ。問題意識の中心にあるのは、未来を担う若者のことである。自国通貨を発行できる政府は借金を心配する必要がないという現代貨幣理論(MMT)が幅を利かせるが、それが本当に将来世代のためになると言えるのか。コロナ禍で急増した財政赤字のリスクを直視し、透明性を確保した中で真剣な議論を交わすべきだと直言したい。(関西学院大学教授 村尾信尚)
財務官僚として予算と債務管理を担当
人ごとではない財政赤字の深刻化
日本テレビ「NEWS ZERO」のニュースキャスターを2018年9月に退いてから、約2年半がたちました。この間、新型コロナウイルスの感染拡大で、世界も日本も大きく変わりました。
私の後任のキャスターである有働由美子さんをはじめニュース報道に携わるみなさんは、取材活動に大きな制約を受け、さぞかしやりにくいだろうと推察しています。その分、スタジオで何ができるのかが問われ、やり方次第によっては他局との差別化を図ることができるのではないか。いわば、ピンチはチャンスと捉えていただければと思います。
私自身の生活もまた、コロナで激変しました。これまで公務員(財務省)、そしてキャスター時代は、四半期を区切りに仕事をしてきたのですが、特に「ステイホーム」を余儀なくされてからは、自宅周辺の自然に目が向き、四季の移り変わりの妙に心が動くようになりました。てんとう虫がやってきたり、桜からチューリップ、紫陽花(あじさい)から向日葵(ひまわり)へと、リレーのように次々と花が咲くのを見るのはとても楽しいことです。
私のインスタグラムのアカウントで、四季の花々の写真が多くなったのも、ちょうどコロナ禍に日本が見舞われた昨年の春からです。生活サイクルが、四半期モードから春夏秋冬モードに切り替わったと言っていいでしょう。
現在も関西学院大学の教員を続けているほか、各種メディアへの出演、若者たちとの意見交換などを行っていますが、一方で現在65歳の私が次の世代のために、これから何ができるか、考えているところです。
その中でもやはり私が心配なのは、今の子どもたち、次の世代のことです。私は財務省時代、主計局主計官として国の予算編成に携わり、理財局国債課長として国の債務管理を担当しました。巨額の財政赤字の問題は、まず私自身にとって人ごとではありません。
また官僚生活の最後には、環境省総合環境政策局総務課長として地球温暖化問題に取り組んだ経験もあります。今の世代のツケを次の世代に回すことになるこの二つの問題は、持続可能な社会を考えるときに、避けて通ることのできない大きなハードルです。
そしてコロナ禍は、すでに巨額の赤字を抱えるわが国の財政に対して、さらに大きな負荷をかけています。