日・米・欧・インドのリーダーシップの違い

日置 これまでのご経験のなかで、各社のリーダーシップや意思決定について、何か違いを感じていますか。

田中 トップのリーダーシップについては、国籍や組織文化よりも創業者が健在か否かで違うと思います。前者の例はサンファーマで、創業者の強力なリーダーシップが組織をけん引していますが、片や、組織としてのグローバル化にかけている時間が他の1世紀を超えるメガファーマと比べると短いため、コーポレートファンクションにおける知見の蓄積はこれからという面もあるかもしれません。

 一方、アメリカ、イギリス、スイスなどの欧米系は、トップやキーパーソンの強力なリーダーシップをコーポレートファンクションが支援する体制が整っています。

日置 日本企業は、リーダーシップといってもトップダウンが効きにくい感じですね。

田中 『ワールドクラスの経営』でのご指摘の通り、コーポレートファンクションも弱いですしね。そして、組織がコンセンサスベース。おもしろいことに、このコンセンサスという点についてはGSKとアストラゼネカは似ていますね。会議の数もその参加人数も日本企業並みに多いです。参加メンバーの選別などの準備も根回しが徹底していて(笑)。

日置 確かに面白い。「欧」を一括りにしてはいけませんね。イギリスも島国だからか?(笑)。外から見れば一色なのだけど微妙に違うところをまとめようとすると複雑な問題が絡み合う。日本人やイギリス人は、微妙な違いだと譲れないという心理が働くのかもしれません。逆にまったく違えば合わせることに集中できるのかもしれません。

 ところで、田中さんは英、独、米、スイス、インドという多くの国籍の企業に身を置かれたと同時に、ヘルスケア業界と一口に言っても異なるビジネスモデルの企業で経験を積まれ、各グループのビジネスモデルの違いを熟知されています。薬といってもさまざまですよね。

田中 医療用医薬品企業とOTC企業では、顧客も取引先も違います。実は横同士のつながりもほとんどないですね。ですから、医療用医薬品に詳しくてもジェネリックは詳しくないというケースも珍しくありません。特にポジションが高くなるほど成功確率が低くなる傾向にあるので、実は下の図のように4つの領域の相関性は余りないのです。


 医療用医薬品は、処方箋が要る薬です。ワクチンを製造するファイザー、ノバルティス、ロシュ、GSKのようなメガファーマはここに属します。特徴はビジネスサイクルで上市までの15年を耐えうる財務体質が必要です。

 ジェネリック医薬品はテバ、沢井製薬などが有名で、ビジネスサイクルが短くて、開発スピードとコスト競争力が勝負の決め手です。少量多品種という業界になっています。

 一般薬は処方箋が要らない薬で、一般消費者向けですから、広告宣伝費に比例して売り上げが伸びる領域です。最後のスペシャリティは特定の疾患領域で左側の3つを組み合わせる形でして、サンファーマの皮膚科領域はここに該当します。

日置 これらすべてをキャリアに組み込んでいる方は少ないですね。田中さんがビジネスモデルの異なる、そして多国籍の企業でご自身のキャリアを形成されてきた歩みについて、次回、詳しく伺いたいと思います。

(次回へ続く)