新興国市場の視点で製品、サービスの開発を実現する「リバース・イノベーション」が注目を浴びてから早10年。当時、アジア企業のグローバル化の手本として称えられたタタ・グループは、いまやワールドクラスの一角で独自の存在感を示すまでに成長した。傘下のタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)は変革の拠点を東京に定め、ワールドクラスとは一味違う手法を猛スピードで展開する。日本TCSの中村哲也専務に、タタ流グローバル経営について聞いた。(マネジメント・コンサルタント 日置圭介)

タタ・グループはパーパスドリブン型組織

日置圭介 インドのムンバイを拠点とするタタ・グループといえば、製鉄や自動車などが日本でもおなじみです。100カ国以上で事業を展開し、グループ全体で主要30社という巨大財閥の中核で、中村さんは進化するグローバル企業の姿をまざまざと見つめていらっしゃいますね。IT事業を牽引するタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)は、どういう会社なのですか。

中村哲也
日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS) 専務兼チーフデジタルイノベーションオフィサー(CDIO)

1988年、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。国内外で営業や経営企画、システム導入、3行統合をはじめ幅広い業務に従事。2007年、GEジャパンに入社。主に金融機関とのパートナーシップ構築を図る金融法人部や大手日本企業との戦略的パートナーシップ構築を図る法人営業推進部で活躍。2012年から、日本におけるGEデジタルの立ち上げ・運営を主導。同社の常務執行役員を経て、2018年4月、日本TCS専務・CDIOに就任。

中村哲也 TCSが属するタタ・グループは連結売上高が約11兆円を超え、全世界に75万人超の従業員がいます。規模、進化のスピードからして、インド三大財閥の一つというより進化型のワールドクラスと呼ぶにふさわしいと考えています。

 グループ全体の売り上げの8割を占めるのが、タタ・モーターズ、タタ・スチール、タタ・パワー(電力)、そしてTCSの事業です。TCSのあり方は、グループのビジョンに根ざしています。

 タタ・グループでは、全従業員が「自分たちはなぜこの仕事をするのか」という自らの存在理由(パーパス)に照らし合わせて行動する仕組みになっています。グループのパーパスが組織の基軸となり、個人にも反映されるわけですが、では、そのパーパスは何か。それは、グループの株式構成に表れています。

 タタ・グループ各社の株式の一部は持株会社のタタ・サンズが保有し、タタ・サンズの株式の66%が慈善団体であるタタ・トラストに帰属します。タタ・トラストは、結果として全グループ収益の50%を学校建設や医療提供などの社会貢献活動に役立てています。つまり、タタ・グループが儲けたお金の約2分の1は社会貢献に回るという構造です。これこそが、創業者の理念であり、タタの存在意義なのです。

 グループ従業員はこうしたお金の流れを理解し、自分の仕事が社会貢献につながっていることをパーパスとしています。つまり、創業の理念と個人の目的が一致しているわけです。企業理念として社会貢献や人々の幸福を謳う企業は数多ありますが、仕事というものがサラリーだけでなく自分の存在意義や誇りを得るものになっている仕組みはなかなかありませんよね。

 われわれTCSもその構造にしっかりと組み込まれています。社会に貢献することが組織としての存在意義であり、それを実現するために一人ひとりが達成したいこと(目的)をTCSとして支援し、解決していこうと。そういう会社です。

日置 社会課題を解決するというエンジンがグループ全体でフル回転しているというのは、デュポンやGEのようなワールドクラスと同じですが、153年の歴史を持つタタ・グループの目的志向が100%社会貢献であり、創業時から変わらず進化していることに驚きます。グループの中でTCSは新しい組織ですね。

中村 1968年の設立で、53年です。売上高は約2兆4千億円で、その8割が欧米です。事業が急速に飛躍したのは2000年問題(Y2K)のときでした。当時、GEなどの欧米系ワールドクラスが直面していた課題やニーズにしっかり対応して成果を出したことで顧客の信頼を得ることができました。以来、IT・デジタル化の伴走者として成長してきたのですが、じつはTCSにとってインドや日本はグロースマーケットであり、日本はTCSの中でも唯一、一国が単独市場として認識されている注力マーケットなんです。