はじめに

なぜ、生産性があがらないのか?

 仕事の生産性をあげる。

 かつては製造業の現場でしか語られることのなかったこのテーマ。2016年に起きた電通社員の過労自殺事件を機に、職種を問わず論じられるようになってきました。

「働き方改革」は国会の重要テーマの1つ。中央省庁も地方自治体も企業もこぞって長時間労働の削減と生産性向上に取り組みつつあります。労働生産性の向上は、いまや日本全体の関心事と言っても言いすぎではありません。

 その一方、生産性に関して、大きな誤解があるような気がしてなりません。

 生産性向上=時短ばかりに重きが置かれがち

 ある企業では、事務員全員を対象にエクセル研修を実施することになりました。オートフィルタなどエクセルの便利な機能や関数、ピボットテーブルの使い方を身につけてもらい、データの集計作業やレポート作成業務の時間短縮を図る。これは、作業の効率化に大いに寄与します。

 受講した社員からは「作業がラクになった」「残業しなくて良くなった」と好評。さっそく効果が出たとのことです。作業効率化により、実際に労働時間は短くなります。すぐに効果を実感できるため、生産性が向上した実感が得られます。

 ここに大きな罠があります。

 この後、こうなったらどうでしょう?

「業務変更により、新たに2つレポートを作成しなければならなくなった」

 当然のことながら、その分の労働時間は増えます。業務量が増えますから。企業は、基本的に成長し続けることを前提に日々の事業を営んでいます。つまり、単純に考えると、業績があがる限り業務の量は増え続けるはずです。どんなに作業単位あたりの時間を短くしたところで、業務量が増えれば掛け算で労働時間はいきおい増えます。

 あれれ、気がついたらまた残業時間が増えていた?

「時短」で生産性はあがらない

 いわゆる業務改善には2つのタイプがあります。そして、生産性向上はこの2つを押さえるところから始まります。

 タイプ(1) 処理高速化型 

 エクセルの技を身につけて集計作業をスピードアップする、標準テンプレートを作って作業を効率化する、トークのスキルを鍛えて短時間でテレアポを取れるようになるなど、作業単位の所要時間を短くするアプローチ。すなわち「時短」です。前述のエクセル研修実施は、このタイプの改善に当てはまります。

 ところが、どんなに頑張って時短をしても、業務量が増えたらその効果は一気に吹っ飛んでしまいます。最初の1カ月は残業が減ったものの、2カ月目から結局元に戻ってしまうなんてことも。

 また、タイプ(1)は人のスキル依存になりがち。企業の規模が大きければ大きいほど全社員のスキルアップには時間もお金もかかります。さらに、規模が小さければ、特定の個人に属人化するリスクが高くなります。

 そこで、もう1つ、別のアプローチが必要になります。