東芝の臨時株主総会で、シンガポールの投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネジメントの株主提案が可決された。同ファンド選定の弁護士が、東芝の定時株総の決議適正性を調べることになる。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
エフィッシモの提案が可決
株主の本気度を見誤った東芝
「エフィッシモの提案通りに、淡々と調査するだけ。誰も動揺していない。東芝が関与した『圧力』などあり得ない」。3月18日の臨時株主総会後、東芝幹部はこう強がった。だが、ガバナンスの在り方を巡って対立してきた、筆頭株主(持ち分比率は1割弱)であるエフィッシモの提案可決は、東芝にとって同ファンドが送り込む刺客(調査を行う弁護士3人)を城内に迎え入れたに等しく、決して楽観できる状況ではない。
今後の調査によって東芝が窮地に追い込まれる二つの理由を解説する。
そもそも東芝とエフィッシモの対立は、昨年7月の定時株総で表面化した。エフィッシモは東芝子会社が循環取引を行っていたことを問題視し、ガバナンス強化のためにエフィッシモ創設メンバーの今井陽一郎氏らを取締役に迎えるよう東芝に要求したのだ。この株主提案は否決されたが、今井氏選任への賛成は43%に上り、一定の存在感を示した。
片や、車谷暢昭社長再任への賛成は57%にとどまった。これはエフィッシモが他のアクティビスト(物言う株主)を巻き込み、ネガティブキャンペーンを展開したためとみられる。
こうして両者の溝が深まっていたところに、定時株総での決議が適正に行われていたのかと疑われる事態になった。議決権行使書面の誤集計と、一部の大株主が何者かの「圧力」を受け(この圧力に東芝が関与したかどうかが今後の調査の焦点となる)、議決権を行使しなかった問題が浮上したのだ。
東芝は監査委員会による調査の結果、「さらなる調査は必要ない」と幕引きを図ったが、エフィッシモは第三者委員会による再調査を要求。これを東芝が拒否したため、エフィッシモが今回の臨時株総の招集を求めるに至った。
こうした経緯を振り返ると、東芝の経営陣は株主からの信頼を過信し、徹底的な調査を求める株主の本気度を見誤ったと言わざるを得ない。
ある東芝幹部はエフィッシモの提案について「追加で調べるなら一応やってもらいましょうというノリで他の株主が賛成しやすい提案だった。同時期に、別のファンドが提案した『稼いだ5年分のキャッシュの全てを株主還元に充てる』といったものよりハードルが低かった」と語るが、そんな敗因分析をしても後の祭りである。自ら独立した調査を始めるのと、株主に押し切られてそうするのとでは全く意味合いが異なるからだ。