「依存症」と「組織が抱える問題」の構造が
よく似ている理由

──「慢性疾患」の話は、まさにあらゆる組織に通じる根本的な問題だと感じます。きっと誰もが「うちにも慢性疾患が起こっている!」と共感してくれると思うんです。それでいて、そこに目が向けられず、表面的な議論に終始したり、既存の解決策の適用に走ってしまうのはどうしてなのでしょうか?

宇田川:やはり困っていることが実は当人にもなかなかわかりにくいからではないかと思うのです。

 それについては、依存症ケアの視点が非常に参考になりました。

 たとえば、DVや仕事のつらいストレスなどを抱えている方が、アルコール依存症になるケースがあるそうです。

 アルコール依存が悪いとか、薬物依存がよくない、という話ではなく、依存症がどんな状態か少し説明します。

 本来、私たちが依存症でない飲み方をするときは、楽しくなりたくて飲んでいる、利得を得るために飲みますよね。

 でも、依存症の人たちは「つらさをリカバリーするため」に飲まないといられないつらさを経験しています。

 つらい状況があって、ひとり、どうしていいかわからない中で、必死に自分でできる解決方法に手を出し続けなければならない状態が続いているのが依存症なのです。

 別に、彼らは「飲みたくて、飲んでいる」わけではないのです。

 つまり、問題は表面に現れている「アルコールを飲んでしまうこと」ではなく、背後にある「つらい状態がずっと続いていること」なのです。

 そのつらい状態を、どうしていいかわからないからこそ、自分でできる手っ取り早い解決策を講じ続けている。その状態が依存症なのです。

 今、日本の企業の多くが依存症的だと感じるのはそういう部分です。

 組織の慢性疾患が継続的かつ繰り返し起こっていて、「つらい状態」にあることは確かです。

 でも、その問題の正体はよくわからないし、何が問題なのかもわからず、どうしたらいいか、どこから手をつければいいかもわからない。

 まさに「つらい状態」がそこにある。

 その状態をどうしていいかわからないので、コンサルタントに丸投げしてみたり、ワークショップをいろいろやってみたりするのです。

 最近は「気持ちいいから、出てこない」という意味で「ワークショップ温泉」という言葉もあるらしいですが、これは依存症と似た構造だと思います。

あなたの会社を蝕む6つの「慢性疾患」と「依存症」の知られざる関係

──確かに「起こっている問題」をどうしていいかわからないから、
手っ取り早い解決策に手を出しているのと同じ構造ですね。

宇田川:さらに、知識依存もあります。『◯◯大全』などで最新のビジネスメソッドや組織論を学んだり、いろいろな理論を一気に学べる書籍を読んでいる人は多いですね。

 それらが間違っているとは思いません。でも、多くの方はそこから、

「ウチの会社は、こういうところがダメだ」
「私の上司は、こういうところがわかってない」

 と、文句を言うことにつながっていないでしょうか。

 不満を感じたり、つらい状況を変えていければいいのですが、なかなか何が問題で、どうしていいかはわかりません。

 結果、流行りの理論を学んで、今の状態の批判をしながら傷ついているのではないかと思うのです。

 この痛みを解きほぐし、少しずつ変革していくことが難しい状態が続いているのではないでしょうか。

──一つの依存状態なのですね。

宇田川:もちろん、それは私自身への反省でもあります。

 前著『他者と働く』でも(慢性疾患とは言っていませんが)、それこそ何が問題なのかを探っていくために、対話をしましょうと話しているのです。

 しかし、どう対話を進めるか困っている方が多くいることがわかりました。

 つまり、どこから手をつけたらよいかわからない困難な状況があったのかもしれないのです。

 あの本は、よくも悪くも「思想的な本」だったと思います。

 だから、具体的にどう一歩前へものごとを進めるか、ということについて踏み込む必要を感じました。そうしないと、元の苦しい依存状態に結局戻ってしまうのではないかと。

 だからこそ、新著『組織が変わる』では、もう少し問題を解きほぐして、実際にどうしたらいいのかがわかる具体的なアプローチについても詳しく書くようにしました。

 組織の慢性疾患に向き合うわけですから、「すぐに解決できる」という即効性のあるメソッドではなく、むしろ「解決モード」に入る前に「何が問題なのか」をていねいに見つけていくための方法『組織が変わる』では書いたつもりです。

【だから、この本。大好評連載】

<第1回> あなたの会社を蝕む6つの「慢性疾患」と「依存症」の知られざる関係
<第2回>【チームの雰囲気をもっと悪くするには?】という“反転の問い”がチームの雰囲気をよくする理由
<第3回> イキイキ・やりがいの対話から変革とイノベーションの対話へ!シビアな時代に生き残る「対話」の力とは?
<第4回> 小さな事件を重大事故にしないできるリーダーの新しい習慣【2 on 2】の対話法

<第5回> 三流リーダーは組織【を】変える、一流リーダーは組織【が】変わる

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