史上もっとも悪名高い賭け方
マーチンゲール法
このシステムではまず、ルーレット台の赤と黒に代表されるような「勝てば2倍」のギャンブルに、1単位のお金を賭けることから始まる(ここではわかりやすくするために1単位=1ポンドとしよう)。勝てば儲けを取っておいて、また一から始める。負ければ賭け金を2倍にして2回目に挑む。2回目で勝てば合計4ポンドが払い戻される。今まで累計3ポンドを賭けているので、儲けは合計1ポンドとなる。この時点で、また一からやり直す。
毎回勝つまでこれを続けると、必ず1ポンド儲かる。3回目で勝てば、累計賭け金1+2+4=7ポンドに対し、リターンが8ポンド。4回目で勝てば累計賭け金1+2+4+8=15ポンドに対し、リターンが16ポンド、という具合だ。一般化すると、n回目で勝てば、累計賭け金2n-1ポンドに対し、2nポンドのリターンを獲得できる。
もちろん、このシステムの最大の問題は、賭け金が指数関数的に増えていくことだ。元本が2n+1-1単位より少なければ、n回連続で負けつづけた段階で、もう次の回には進めなくなる。
たとえば、また1単位=1ポンドとして、10回連続で負けつづけたとすると、それまでの賭け金の累計は1+2+4+8+16+32+64+128+256+512=1023ポンドにもなる。だが、元本が2047ポンドより少なければ、これ以上この賭け方は続けられない。仮に元本が1024ポンドしかなければ、残りはたったの1ポンドだ。そのお金だけは残しておいたほうがいい。お酒を買って悲しみをまぎらわせるように……。
マーチンゲール法の特徴は、相対的に起こりづらい結果に損失を一点集中させているという点だ(ただし、万が一その結果が起きたら、損失はとんでもない額になる)。それでも、マーチンゲール法のリターンの期待値は、単純に毎回1単位を賭けたときとまったく同じになるのだから面白い。
この点をはっきりさせるため、公平なルーレット・ゲームを仮定したうえで(つまり、ハウス・エッジの源泉である「0」に玉が入ることはないものとする)、1単位を1ポンドとして、3回連続で赤に賭けた場合に起こりうる結果をすべて列挙してみよう。
赤赤赤 3ポンドの利益
赤赤黒 1ポンドの利益
赤黒赤 2ポンドの利益
赤黒黒 2ポンドの損失
黒黒黒 7ポンドの損失
黒黒赤 1ポンドの利益
黒赤黒 損得なし
黒赤赤 2ポンドの利益
潜在的な利益と損失はまったく等しいのだが、ほとんどの潜在的損失は「黒黒黒」という結果に集中している。この結果が起こる確率は1/8で、損失は7ポンドだ。それ以外の結果になる確率は7/8で、平均1ポンドの儲けになる。潜在的損失が元本を上回る時点まで賭けの回数を増やしていっても、同じパターンが続くわけだが、全体的な利得が増えるかといったらそんなことはない。そして当然、実際のカジノでは、ハウス・エッジのせいで勝ちの確率が店側にとって有利になるよう調整されている。
それでも多くの人がマーチンゲール法を信頼しているのは、たとえランダムな試行であっても、同じ結果が立て続けに起こることがそう珍しくないという事実を誤解しているところが大きいように思う。
ベッティング・システムの仕組みは、基本的にはすべてこれと同じだ。負けた場合の代償を増やすことと引き換えに、勝ちの確率を有利に操るのだ。そのためには、すべてのリスクを標本空間の片隅へと一点集中させるか、やや大きな損失の生じる可能性を分散させることによってそこそこの勝ちの確率を高めるか、ふたつにひとつしかない。負けの確率を0にすることや、期待値やハウス・エッジ(胴元の取り分)の根本をくつがえすことなんて、どうやったって絶対にできないのだ。