本書の要点

(1)『方丈記』の著者である鴨長明が生きた時代は、歴史的な大事件や大飢饉が起こるなど、世の中が大きな変化を遂げた時期だった。
(2)飢饉の間、人々のあさましい行いが散見された。その一方で、愛する者のために命を落とす人々もいた。
(3)鴨長明は、30歳を過ぎたころに小さな家を構えた。その後、50歳の春に出家し、山の中でひっそりと暮らすようになった。物寂しい庵に住み、粗末な身なりや食事を楽しんだが、ほかの人にその生活をすすめたいと思っていたわけではなかった。

要約本文

◆三大随筆のひとつ、『方丈記』
◇『方丈記』の時代

『方丈記』は、1222年、鎌倉時代初期に鴨長明(かものちょうめい)が記した随筆である。清少納言の『枕草子』、兼好法師の『徒然草』と並び、しばしば三大随筆に数えられる作品だ。

 長明が生きたのは、平安時代末期から鎌倉時代初期という、保元・平治の乱、壇ノ浦の合戦など、歴史的な大事件が起こった時代だ。飢饉なども起こり、世の中が大きな変化を遂げた時期である。

 現代も、未曽有の災害や予測不能な困難など、激動の時代を迎えている。今私たちは、「いかに生きるべきか」という問いの答えを『方丈記』に見つけることができるかもしれない。

 長明自身も、劇的な人生を送っている。長明はもともと、賀茂御祖(かものみおや)神社の神事を統率する正禰宜惣官(しょうねぎそうかん)の子として、恵まれた家に生まれた。しかし、働き盛りの父が夭逝(ようせい)したことで、人生が暗転する。

 やがて歌の才能が認められるようになり、役所の和歌所(わかどころ)の職員という重要なポストに就くチャンスがめぐってくるが、それも逃してしまう。失意の長明は失踪し、のちに出家して隠棲生活を送ることになるのだ。

 次の項からは、『方丈記』の内容の一部を取り上げて紹介する。