◇ステップ2 「最終定理」に向き合う数学者たちのドラマ

 ステップ2で取り上げるのは、多少数学的な知識をつけた上で読むべきものだ。読み物が好きな人にお勧めの数学本が『フェルマーの最終定理』(サイモン・シン/著 新潮文庫)である。この本では数学界最高の謎と言われた「フェルマーの最終定理」を証明した数学者ワイルズなど、最終定理と向き合う数学者たちの人間ドラマを描いている。難しい数式などはほとんど出てこないため、数学初心者でも楽しめる作品だ。一読すれば、数学に対する見方が大きく変わることだろう。

◇ステップ3 日本人数学者の世紀の大発見に興奮

 一般の人は数学者の論文を理解することはできないが、数学の理論が持つ意味や、歴史的な意義について知ることはできる。数学ジャンルの仕上げの1冊である『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』(加藤文元/著 KADOKAWA)では、日本人数学者による世紀の発見を通してそれを学ぶことができる。京都大学の望月新一教授は、有名な数学問題のABC予想を解決したと表明した。現在も論文が審査中であるが、望月教授が提唱したIUT(宇宙タイヒミュラー)理論は、これまでの数学の大前提を覆すような正規の大発見になるかもしれない。知性が新しい段階に入ったときの興奮を感じることができる本作は、ぜひ読んでおきたい一冊だ。

◆本の理解力が上がる3ステップ読書術【作家別】
◇作家の著作にも読むべき順番がある

 ジャンル別の読書術で出合った作家に興味が湧いたら、次はその人の著作をどんどん読んでいくことができる。その場合も、読む順番は大切だ。最初の1冊は難解な作品よりも、短く読めるもの、面白いものを選んだ方が良い。

 たとえば、ドストエフスキーの最高傑作である『カラマーゾフの兄弟』は、話が長い上にストーリーが難解で、強烈なキャラクターが多く、最初に挑戦したら「自分にはドストエフスキーは向いていない」と早合点しかねない。彼の作品のなかでも比較的読みやすくて短いものから読んで、彼の世界に慣れてから、長編に挑むのがお勧めだ。

◇ステップ1 『貧しき人々』に込めた思いを知る

 ドストエフスキー体験として最初にお勧めしたいのは、彼が一躍脚光を浴びることになった処女作、『貧しき人々』だ。SNSでのコミュニケーションに慣れている現代人には最初は冗長に感じられるかもしれないが、書簡形式の文章は平易で読みやすい。次第に手紙で明かされるさまざまなエピソードに、ぐいぐい引き込まれていくことだろう。