もし自分だけワクチン接種ができなかったとしたら……という焦りは、コロナへの恐怖や生活への不安感からとても大きいため、ちょっとした刺激(対応者の失言、対応の不備など)でクレームを激化しやすいのです。インターネットを利用した予約受付を推奨するも、ネットが苦手なシルバー世代にはなかなか酷な話。「わからない」や「使えない」という気持ちから、大きなストレスがかかります。

 今回の件に限らず、パニックになったクレーマーにはどのように対応すればよいのでしょうか。結論から言えば、クレーム現場で大切なのは、恐怖心や業務の遅れ、困惑や焦りをなんとかこらえ、「性善説」で相手に接することです。ここで数分耐えながら話を聞き、「相手は正当なクレームを訴えている」と思う気持ちが、その後の対応を楽にします。

クレーマーは、相手を見て態度を変えるもの

 接遇やこちらの対応の不備で怒り出し、当初は落ち着いていた人がクレーマーと化してしまう事例はたくさんあります。上で性善説と書いているのに矛盾するようですが、知っておいてほしいのは、実は、“クレーマーの腹の底は計算ずくなこともある”ということです。

 こうしたグレーゾーンでは、やはり、経験や情報がものを言います。対応が長引き、なにか思惑があるような気がする場合には、「あれ? 何か変だな。おかしいな」と感じる“感覚”を大切にしてください。

「客の目を見て接客しろ、サービスがなってない!」
「お釣りの渡し方がなってない!」
「なんだその態度は!」

 と、従業員の対応不備で怒り出したクレーマー。しかし、クレーム対応経験豊富な上の立場の人間(店長など)が出てきて「一筋縄ではいかないな」と思うと、ガラリと一変。「この店はよく利用しているから、今回の態度に腹を立ててしまったんだ。この店のファンだから、この子、しっかり指導してね」などと、手のひらを返したような態度を取るのです。

 これはどういうことかというと、クレームをエサにして取り換えができない商品の交換や金品の要求など、特別待遇を得ようともくろんでいたのが要求通りにならなそうだったり、警察沙汰の大ゴトに発展しそうだったり……など、新たに出てきた相手が手ごわそうだと感じた瞬間に、クレーマーはひらりと手のひらを返し、「いい人」な雰囲気を醸し出して幕引きを図ることも多いのです。あまりのあっけなさと、見事なまでの変身ぶりに、最初に対応していた従業員はキツネにつままれたような気持ちになるのではないでしょうか。

 案外忘れがちな視点なのですが、クレーマーは、腹の底に思惑や不安感を抱えながら、相手によって対応を柔軟に変える“役者”が多いのです。ですから、対応する側も役を演じているつもりで、最初は相手に寄り添う姿勢を見せつつ、内心は淡々と対応する。顔と心でまったく逆の二面性を持つことで、クレーム対応を乗り切れるのではないかと思います。