「よそもの」が
観光地に新たな風を吹き込む

<br />鎌田由美子著『「よそもの」が日本を変える』(日経BP)

 一方、後継者不在の旅館や古民家を改修して活用したり、地域の資源をふんだんに取り込んだランドマークをつくったりなど、近年はその土地の持つ文化に「よそもの」が新しい価値観を持ち込み始めています。

 それらの施設は比較的高価格帯にもかかわらず、コロナ禍前には予約が取れないほどの人気でした。ここにワーケーション拡大や人の移動の増加が加われば、より強い観光資源となるはずです。

「晴耕雨読の時を過ごす、田んぼに浮かぶホテル」というコンセプトを掲げる「ショウナイホテル スイデンテラス」(山形県鶴岡市)もその可能性を感じた施設の一つ。

「Casa BRUTUS」(マガジンハウス)の表紙にもなり、庄内を知らなかった多くの人の目も引きました。世界的建築家・坂茂氏の建築は、水田に浮かぶような建物で景観と一体化。一度見たら忘れられないような光景が旅への期待をそそります。さらに運営する会社に地元の企業や住民が出資するなど、まさに地域とつくり上げる施設だと感じました。ここを運営するヤマガタデザインの山中大介代表は東京都出身。大手不動産会社を経て、庄内地方に移住しています。

「里山十帖」(新潟県南魚沼市)は、雑誌「自遊人」を出版し、米作りを始めてオフィスを南魚沼市に移転した岩佐十良(とおる)氏がプロデュースしたライフスタイル提案型複合施設。豪雪地帯のど真ん中の雪深い場所の古い建物をリノベーションし、地域の伝統的な食材や料理を提供。高く評価されています。1万2000冊を超えるという本を好きなだけ読める旅館「箱根本箱」(神奈川県箱根町)も大人気で、「松本本箱」(長野県松本市)も開業しています。女性1人でも快適に泊まることができ、日ごろの疲れと時間を忘れてしまうぜいたくを味わえる旅館です。

コロナ禍、働き方の変化…
多様化が進む観光業界

 こうした新しい価値観を打ち出す宿はこれからも増えそうですが、一方でテレワークは今後も一部定着し、通勤や出張は減ることが想定されます。

 密を避けるため、交通機関や宿泊、飲食施設では定員にゆとりを持たせる動きが定着していきそうです。当然、交通機関や宿泊、飲食施設の損益分岐点は上がり、料金にも反映されるはずです。観光業界では顧客の変化への対応を迫られるところも増えるでしょう。

 旅行シーズンの分散化はこれまで多々言われてきたものの進みませんでしたが、働き方の変化と連動し、少しずつ変化の兆しが表れてきています。ダイナミックプライシング(価格変動制)の導入や予約の工夫なども含めて制度も変化し、旅のスタイルは時期、滞在スタイル、観光目的など、さらに多様化が進むように感じます。

 安価な旅のスタイルも、一定の宿泊数を定額で提供するウェブサイトやアルバイトをしながら滞在することを提案するウェブサイトなど、新しいサービスも急増しています。

 好きなときに好きな場所で働くための住まいが見つかる「HafH(ハフ)」、複数の提携ホステルの中から選んで泊まれる「Hostel Life(ホステルライフ)」、農家や宿泊施設などの手伝いをする「ボラバイト」など、既存の観光旅行の仕組みとは異なる部分で、動き出しているように感じます。