また、小林化工がジェネリック医薬品メーカーであることから、事件を「ジェネリック医薬品だけの問題」として論じる向きもあるが、いかがなものか。

 日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会代表理事で日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役の武藤正樹氏は「同様の問題は先発品でも起こり得ます」と断言する。現場の医師であると同時に医療政策の専門家として「全国民が医薬品の恩恵を等しく受けるためにはジェネリック医薬品の普及が欠かせない」との信念のもと、20年以上にわたってジェネリック医薬品の信頼性の向上と普及に尽力してきた武藤氏に話を聞いた。

特許切れ処方薬の8割近くは
ジェネリックに置き換え済み

 本題に入る前に、ジェネリック医薬品について説明しよう。

 ジェネリック医薬品とは、新薬の特許が切れた後に新薬と同じ有効成分で作られる安価な後発品を指す(従来の新薬は「先発品」と呼ばれる)。国は2015年6月、高止まりする医療費の抑制を目的に、「2017年度に70%以上、2018年度から2020年度末までの間のなるべく早い時期に80%以上」とジェネリック医薬品普及目標を設定した。結果、先発薬と後発薬がある場合、後発薬が全体に占める使用割合は(13年7~9月期)47.3%から78.9%(20年7~9月期)に急増した(日本ジェネリック製薬協会の調べ)。

 もはや特許の切れた処方薬の8割近くはジェネリックに置き換わっているのである。

 ただ、どんなに置き換わろうとも、大部分の国民が理解しているように「ジェネリックは先発品と“同じ薬”で値段が安い」ということであれば、何ら問題は生じない。しかし、ジェネリックと先発品とでは、原料も工場も、添加物も違うのだ。

「添加物が違えば、薬の効果も随分変わります。ただし、ジェネリックが先発品より劣るということにはなりません。先発品よりも剤形などに工夫を凝らした改良型、付加価値型のジェネリック医薬品も数多く存在するので、単純に比較はできません。たとえば嚥下(えんげ)障害のある患者さんが服用しやすいよう剤形を口の中で溶けやすくしたり、ゼリー剤や小型錠剤にしたりといったこともあります。

 だからこそジェネリックの場合、患者さんを使った臨床試験こそしていないものの、20人以上の健康な成人(ボランティア)に製剤を投与し、時間を追って薬物の血中濃度を測定するなどで、先発品と同等であることを証明しています」(武藤氏、以下同)

先発品であっても
時がたてばジェネリックと一緒

 では今回のような事件は、ジェネリックに限らず「先発品でも起こり得る」とはどういうことなのか。

「薬は工業製品なので、承認時の規格と実際に市場に出回っている規格では違うことは結構あります。

 先発品であっても、20年前に承認された製剤と現在使われている製剤は違います。製造工程も添加物もどんどん進歩するので、ある意味当然ですよね。こうした違いがあったとしても、先発品として承認された製剤と同等であることを証明する試験は、ジェネリックの承認試験と全く同じです。

 つまり先発品ですら、時がたてばジェネリックと変わらないということです」