◇最も喜びをくれる相手が最も激しい苦しみをくれる

 私たちは、喜びや楽しさや幸福な驚きを与えてくれる、プラスの人間関係を持ちたいと思っている。しかしやっかいなことに、最も喜びを与えてくれる相手が、最も激しい苦しみもくれる存在なのだ。大好きな人といるときは幸福な半面、その人と別れたり争うことになったりすれば、激しい苦しみをもたらす。残念ながら、大きな喜びと幸福は、激しい孤独と不安を生む。

 あなたと関係のない人間関係を「他人」と呼ぶが、プラスとマイナスを同時に持つ存在、つまりあなたの心に深く入り込んだ人間関係は「他者」と呼ばれる。

「他者」とのつきあい方には、正解がない。敵と味方、天使と悪魔の間で強引に宙づりにされた存在なのだ。だから「他者」とつきあうことは、大変な精神的負担がかかる。しかしちゃんとつきあえば、「他者」はあなたの孤独を癒し、不安をやわらげてくれる存在になる。

◇わかり合えなくて当たり前

「他者」とどのくらいうまくつきあえるかが、人間的な成熟度を測るバロメーターのひとつになる。「他者」とうまくつきあえる人は、自分の不安ともうまくつきあえるからだ。逆に言えば「他者」とつきあうことで、人間は成熟する。それは不安と戦うことで、不安をエネルギーにする方法を知っていくということだ。

 不安が生まれる原因のひとつに、「人間はわかり合えるのが当然なんだ」という思い込みがある。しかし、人間はわかり合えないからこそ、わかり合おうとするのだ。

 人はどんなにつきあっても、自分に都合よく立ち回ってくれる「なにも言わなくてもわかってくれるもう一人の自分」になることはない。

◆人間関係の距離感を覚える
◇人間関係が得意で好きな人はいない

 もし人間関係が得意だと思っている人がいたら、その人は脳天気といえる。人間関係で難しいのは、お互いの距離のとり方だ。こうした場合、都度、現場で修正していくしかない。スポーツや習い事と同じだ。まず物理的な距離に注目して、人間関係が遠い人は近づき、近い人は離れてみよう。