手術で体内に避妊具を埋め込み…
子宮に傷がついた人も

 また、一人っ子政策が行われていた当時は、多くの女性が一人目の子どもを出産した後、これ以上の妊娠を防ぐためにIUD(子宮内避妊用具)を体内に入れる手術が頻繁に行われていた。数十年前にこの手術を受けて、リング(IUDのこと)が今も体に残ったままの女性は、2600万人にも上るといわれている。この事実が徐々に明らかになってきたのは、メディアやSNSなどで報じられるようになってきた近年の話である。

 2014年、中国の若手女性芸術家の周〓静さん(〓の文字は雨に文)は、母親が子宮がんと診断されたときにはじめてIUDの存在を知った。二十数年間も体の中にあったリングを取り出す際、激痛に耐える母親の顔と大量の出血を目にして、周さんは多大なショックを受けたという。以来、彼女はIUDに注目し、300種類以上のIUDを集めて展覧会を開いた。「この2600万人の母親たちのことを忘れてはいけない、IUDは彼女たちの健康を脅かしているのだ」と、社会に訴える活動をしている。

 当時IUDを体内に入れられた女性が、年を取ってから子宮穿孔や子宮摘出などに至るケースが後を絶たない。「まるで時限爆弾を抱えているようだ」――、現在このような女性たちの健康状態は社会問題になっている。

「中国統計年鑑2010」によると、1980〜2009年の30年間で、中国全土で行われた中絶の数が2.75億回。避妊手術は6.61億回で、そのうちの2.86億回はIUD手術だった。

「私たちを放っといて」
三人っ子政策へのやり場のない怒り

 時がたち、中国は経済が著しく発展し、社会環境や生活水準が良くなって、人々の意識も大きく変わった。加えて今、出産適齢の女性たちは、祖母や母が政策によって苦しい経験をしてきたことを知っている。そんな彼女たちの、今回の「三人っ子政策」に対する反応は、冷ややかというよりも怒りに近い。

「私たちは、子どもを産む機械ではない。国の都合で子どもの人数にまで首を突っ込まれるのはもうたくさんだ!」

「私たちを放っといてください。一人でも三人でも、実質的に『計画生育』であることは変わりがない」

 6月2日配信の記事『中国で少子化が止まらない!“三人っ子政策”導入も立ちはだかる「3つの壁」の深刻』でも述べたように、今回の政府の方針転換についての反発には、現在の中国で子どもを育てていくことにいろいろな壁があることも大いに関係している。ただ、その深層には、これまで国の生育政策に翻弄されてきた女性たちの心からの叫びがある。

 当時を生きてきた女性たちは、できればひっそりと「あのつらい過去」を心にしまって余生を過ごそうとしていた。しかし、今回の政策変更はその過去を現在によみがえらせてしまったのだ。体の傷は医療で治せるかもしれないが、最愛の子どもを失った心の傷は、長い時間をかけても癒えることはない。それが母親であるからだ。