尾身会長のコロナ対策は「人流を抑える」ことに要点があった。そのため、数万人単位の人間が国境を越えて動く、異次元の人流イベントである東京オリンピック開催に対して否定的な意見を持つことは、全く自然に思われる。

「尾身発言」に応えられない菅政権
政治家として能力不足

 オリンピック開催に反対の国民からは「尾身さん、よく言ってくれた。ありがとう」との声がある一方、ある「与党幹部」はこの発言に対して「越権行為だ」と不快感を表明したとの報道もある。

 後者については、尾身氏は自身がオリンピック開催の可否の決定者でないことについて、十分に認識しているように思われる。彼は、「普通はない」が、それでもやる場合には、なぜやるのか理由の十分な説明が国民に対して必要だと言っている。別段の越権はない。

 問題は、これに十分応えることができていない菅義偉首相以下の政府の側にある。はっきり言って、政治家として能力不足だ。職務の継続に無理があるのは尾身会長の方ではなく、菅首相の方ではないだろうか。「安全・安心なオリンピック」と呪文を唱えるだけで、「どのようにすると、なぜ、安全なのか?」が分からないので、国民は政府を信用できずにいる。各種の調査で内閣支持率が下落している大きな理由だろう。

 尾身氏の発言を重視した野党は、分科会に東京オリンピックの安全性に関して諮問を求めるべきだと要求しているが、政府はこれを拒否している。東京オリンピックの開催に対して否定的な意見を分科会の答えとして受け取ってしまうと、不都合だということなのだろう。改めて言うまでもないが、諮問云々の手続きが問題なのではなく、リスクに対する専門家の判断が問題なのだから、全くばかばかしいこだわりだ。