ケイコ氏にとって今回の大統領選は11年と16年に続いて3度目、そしておそらく最後の挑戦になるだろう。

 過去2回は父フジモリ大統領時代の「独裁的政治」のイメージが足かせとなって惜しくも敗北した。今回は市場経済重視と「民主主義を守る」をスローガンに支持層を広げている。当選すればペルー初の女性大統領となる。

政財界や中間層が
ケイコ氏を支持する理由

 それにしても汚職疑惑で起訴され、捜査妨害の恐れがあるとして一時的に刑務所で拘束されたケイコ氏をペルーの政財界や都市部の中間層はなぜそれほどまで支持するのだろうか。

 その背景には、左翼ゲリラが台頭して大混乱となった同国の暗黒時代の歴史までさかのぼる必要がある。

 1980年代、経済政策の失敗からハイパーインフレで国家破綻に陥ったペルーでは政府転覆を狙った「センデロ・ルミノソ(輝ける道)」と呼ばれる極左武装集団が、国会議員の暗殺や爆弾テロを頻繁に繰り返していた。全盛期にはペルーの国土の3分の1を支配下に置くほどの勢力に拡大し、人々を恐怖のどん底に陥れたのだ。

 その過激さと冷酷さから「南米のクメール・ルージュ」とも呼ばれたことさえあった。クメール・ルージュとは1970年代にカンボジアで勢力を拡大した極左反政府勢力で、大量虐殺で知られている。

 90年代に入って、ようやく軍が治安を回復。国営企業の民営化や財政の立て直し政策で豪腕を振るって国民の熱狂的な支持を得たのが農業大学総長から政治家に転じた日系人アルベルト・フジモリ大統領だった。まさに「救世主」だったわけである。ケイコ氏はその功罪相半ばする英雄の娘なのだ。

 その時代の混乱と恐怖をペルー政財界人も多くの中間層の国民も忘れていないのだ。多少の汚職に目をつぶっても共産主義はご免だというわけだ。