日本人が知らない
フジモリ元大統領の裏の顔

 私は、フジモリ大統領との単独インタビューやヘリコプターに同乗して各地で彼の選挙キャンペーンを取材したことがあるが、とにかく即断即決で早口のスペイン語でまくしたて、日系人であることよりもペルー人であることを常に強調していた。地方の住民には気前よく食料や電化製品などをばらまいて、貧困層の味方だというイメージを作りあげていたのも印象的だった。

 だがフジモリ氏には裏の顔もあった。彼のあまりにも「独裁的」政治手法に反対した一般市民やジャーナリストの殺害事件や側近の汚職などが次々と明るみになったのだ。私が取材していた当時、すでに多くの反政府活動家が「行方不明」扱いになっていたことを記憶している。

 96年、左翼ゲリラによる日本大使公邸占拠事件が起きた際にフジモリ大統領は軍の特殊部隊を突入させて人質を解放、国際的に称賛を浴びた。だが後に投降した無抵抗のテロリスト14人を射殺させたことが発覚。大統領自身も訴追されている。

 反フジモリ運動が日増しに激しくなる中、2000年に3選を果たした大統領は日本に実質的に亡命。日本政府はペルー政府の身柄引き渡し要求を拒否した。日本国籍保持者だということが表向きの理由だったが、日本の大物政治家がこぞって彼を擁護したのは大統領時代に日本からペルーに渡った政府援助に絡んだ利権があったのではないかと私は推測している。

 国際刑事警察機構(ICPO)から国際手配されたフジモリ元大統領はその後チリで逮捕され、任期中に暗殺部隊に大量虐殺を命令した罪で25年の実刑判決を受けた。17年に健康問題を理由に恩赦を受けたが再収監されている。

ドナルド・トランプ 世界最強のダークサイドスキルドナルド・トランプ 世界最強のダークサイドスキル
蟹瀬誠一 著
(プレジデント社)
1650円(税込)

 父の後を追って政界入りした次男のケンジ・フジモリ氏は2011年に国会議員に当選したが、贈賄疑惑で18年に議員資格を停止された。自業自得だろう。

 3度目の大統領選でケイコ氏が落選となれば、汚職事件関連で収監される可能性も出てきた。検察が10日、彼女の拘束命令を出すよう裁判所に求めたからだ。そうなれば民心が離れたフジモリファミリーの名はペルー政界で過去のものとなるかもしれない。

 アンデス南部地方には、古くからこんなことわざがあるという。

「民の声は、神の声」

(国際ジャーナリスト・外交政策センター理事 蟹瀬誠一)