Jリーグでもクラスターはゼロだった
五輪反対は医学的、科学的ではない

小林 開催すれば、当然リスクは高まるでしょうが、それでも開催する意義を、橋本会長はどう考えておられるのでしょう。

橋本 安心は、きちんと対策してこそ見えてくる。それも東京大会を開催する意義だと思います。私たちは、「災害に強い国づくり」をずっと推進してきました。その思いがまだ共有できていないと感じます。危ないからやめるだけでは進歩がありません。安全の実証もできません。安全に開催できるというエビデンスをいかに組織委員会が発信できるか。そこが課題だと思います。これだけの対策をしています。おそらくメディアのみなさんもだいぶわかってきたので、次の課題を「人流」にシフトしたのではないでしょうか。

小林 プロ野球もJリーグも観客を入れて昨年から開催しています。ところが、オリンピックは別だと「無観客」を主張する声が多い。スポーツ界の実績が評価されませんね。

橋本 オリンピックはJリーグやプロ野球と違って全国各地から大勢の人が集まってくるからダメなんだと言われたので、どこから来るのか、調べてもらっているんです。今わかっただけでも、チケットを持っていらっしゃるのはほぼ70パーセント、その競技場の所在地エリアの方なんです。札幌でサッカー1次リーグの試合をやりますけど、約8割が北海道の方です。

 宮城スタジアムのサッカーは宮城県の人が5割くらい、東北地方の方々が約75パーセントです。首都圏も同様でほぼ70パーセントが会場周辺地域の方々です。全国的な動きは、ご指摘ほど多くないんです。こうした情報を、数字もちゃんと用意してお伝えしたいと考えています。

 大会期間中、いちばん決勝が多く、人の流れが最大になるのが7月31日の土曜日とみられています。でも、競技は午前、午後、夜と3つに分かれます。人流が一気に動くわけじゃありません。こういう分析をそろえて議論しようとすると今度は、「オリンピックは特別に興奮するからダメだ」と反論されるんです。そうなってくると、何をしたらいいのかなと(苦笑)。

 オリンピックに反対する人の中には、あまり医学的、科学的でない議論もあるように感じます。

 小林 スポーツ界がこの1年以上にわたって真摯に取り組んできた実績や努力を、専門家や反対する世間のみなさんは見てくださっているのでしょうか?

 橋本 Jリーグの観衆も、声を出さない、拍手と垂れ幕だけで、飲み物を飲んだらすぐにマスクをする、試合後は直帰してくださいといったルールやマナーをきちんと守ってくれている。Jリーグの村井チェアマンから聞きましたけど、Jリーグはこれまで(コロナ禍による中断の後)約1500試合やって、クラスターはゼロなんです。有観客にしても感染を広げない方法があるんですね。こうした好事例も、医学的・科学的な根拠だと思うんですけど、示しても理解してもらえない。

「オリンピックは特別に興奮するからダメだ」、非科学的な話ですよね(苦笑)。