コロナ禍で悪化しているのは賃貸市場
日銀が家賃下落を憂慮する理由

 住宅の中でも、持ち家市場は価格が高騰しているが、賃貸市場は需給が大幅に緩んでいる。都市圏を中心に供給される賃貸住宅は、都市圏への人口流入が急減したために需要が増えなくなっている。人口密度の高い都市圏では新型コロナウイルスの感染者が多く、新たに流入してくる人が減ったのだ。

 稼働率は急減し、高稼働率ゆえの賃料の値上げという従来の手法は、単身者向けを中心に終焉を迎えつつある。回復見込みは立っておらず、ワクチン接種が一定以上進まないと情勢は変わりそうにない。家賃が下がると不都合な人は賃貸オーナーだけではない。最もこれを憂慮するのは、日本銀行だったりする。

 家賃は需給バランス、つまり稼働率や空室率と連動して決まる。しかし、不動産価格において需給バランスは限定的にしか影響しない。影響する場合は、在庫が少なくて、値上がりするときだけだ。

 需給が緩いので価格が下がるという事態は、ほぼ起きたことない。それは、販売が長期化しても売る側が価格を下げずに我慢する体力があるからである。誰も好んで価格を下げる人はいない。

 では、不動産価格はどうやって決まるか。それは、資金の流れで決まる。不動産を現金で買う人はほぼいない。大多数はローンを借りて購入している。会計が分かる人からすると、貸借対照表(バランスシート)の資産とほぼ同額の負債が乗ってくるものだ。

 このローンが借りやすい状態であれば、不動産の取引が成立しやすい。だから、金融緩和をすると、不動産価格はインフレする。それが、アベノミクス以降、8年以上続いている。金融緩和している日銀は、そんなことは百も承知で異次元の金融緩和を続けているのである。

 コロナショック後の不動産価格の高騰は、金融緩和されているところに需給バランスがひっ迫したので生じたといえる。そして日銀は、金融緩和による資産インフレは容認している。それ自体を狙っているわけではないが、遠回しに、この国にとっては悪くないと思っている。

 資産を持っているのはその多くが高齢者で、膨れる資産が国の借金返済に寄与するからだ。しかし、それを目的に金融緩和をしているのではなく、あくまでも副作用のようなものでしかない。

 日銀は、物価が上がり、インフレターゲット2%に届くことを目標にしていると何度となく明言している。だが、黒田東彦総裁の任期があと2年となり、8年も続けてきた金融緩和で目標達成をできそうにない。

 そんな折に、住宅価格が値上がりして、買える人がかなり限定されるほど高くなった。その一方で、家賃は値下がりが始まっている。消費者物価指数には家賃が含まれているため、物価を押し下げ始めている。

 ワクチン接種が済むまでは都市圏への人の流入は最小限に抑えられ、賃貸の需給は悪化を続けるだろう。2020年度の都区部の人口は流出超過で、出ていく人の方が多かった。こうなると、新築の供給戸数分だけ空室が発生する事態になる。家賃が需給バランスの悪化で安くなることは容易に予想される。