富士フイルムHD、コロナ禍最高益の背景にあるフィルム事業「消滅危機」の経験富士フイルムの事業消失危機から学べる新規事業推進のヒントとは? Photo:123RF

6月下旬、約20年にわたり、富士フイルムホールディングス(HD)の経営を担った古森重隆氏が、会長兼最高経営責任者(CEO)の座を退きました。本業の写真フィルム事業消失の危機に直面しながらも、高機能材料、グラフィック・印刷、ヘルスケアなどの成長分野を開拓し、多様な事業からなるコングロマリット(複合企業)への変革を果たした富士フイルムHD。同社から学べることは何か。新規事業推進のヒントを「アンゾフのマトリクス」の観点から解説します。(グロービス ファカルティ本部テクノベートFGナレッジリーダー 八尾麻理)

2000年をピークに10年で10分の1以下にまで
縮小したカラーフィルム市場

 既存事業で十分な売り上げが立っているのに、なぜ「新規事業」に手を付ける必要があるのか。誰もが持つ疑問です。それを理解するのに、「写真フィルム」は最も分かりやすい事例と言っても過言ではありません。

 古森氏が富士フイルムの社長に就任した2000年、本業であった写真フィルムは、成長スピードこそかつての勢いはないものの、対前年比で堅調に販売本数を伸ばしていました。図1は、カラーフィルムの世界総需要の推移を示したグラフです。結果として2000年が、市場のピークであったことが分かります。しかも、数十年かけて成長した市場が、ピークからわずか10年の間に10分の1以下にまで縮小してしまったのです。

カラーフィルム世界総需要推移(出典)富士フイルム「統合報告書(2017年3月期)」 
拡大画像表示

 事業の成立には、環境要因が深く影響します。そして、その環境要因は一定にとどまるどころか、変化するスピードは近年早まる一方です。事業もまた、現在の延長線上に成長が続くとは限りません。予想以上のスピードで消滅する可能性すらあるということが、上記の例からもお分かりいただけるでしょう。

 では、企業はどのようにして、既存事業が堅調なうちに次なる事業機会を探り、さらなる成長を目指せばよいのでしょうか。