勉強、仕事、筋トレ…やる気はあるのに先延ばししてしまう。多くの人が抱えるこの悩みに、心理学の視点から答えるのが、新刊『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』です。著者は、モチベーションの研究を専門とする筑波大学人間系教授・外山美樹氏。本稿では、本書より一部を抜粋し、「人それぞれに適したモチベーションの高め方」を紹介する。

やる気を出してほしくて語ったのに…成功談が響かない本当の理由Photo: Adobe Stock

やる気が出るのは、どっち?

 ある心理学の実験を紹介しましょう。

 この実験では、ポジティブネガティブの2人のロールモデルが、大学生に話をしました。

1人目:ポジティブなロールモデル(就活で成功した人)

 ポジティブなロールモデルは、参加者の大学生と同じ学部を最近卒業したばかりで、就職活動中には大手企業からいくつも誘いを受けました。

「人生にとても満足しており、未来に希望を感じている」と話しました。

2人目:ネガティブなロールモデル(就活に失敗した人)

 一方、ネガティブなロールモデルは、参加者の大学生と同じ学部を最近卒業したばかりですが、仕事を見つけられず、生活のためにファストフード店で働いています。

「人生がうまくいかず、これからどこに進めばいいのかもわからない」と落ち込んだ様子で話しました。

実験の結果は……

 実験の結果、次のことがわかりました。

 ・獲得型の大学生は、ポジティブなロールモデルの話を聞いてモチベーションを高めた。

 ・防御型の大学生は、ネガティブなロールモデルの話を聞いてモチベーションを高めた。

 ネガティブなロールモデルの話を聞いた防御型の大学生は、その後数週間、勉強に普段よりも熱心に勉強し、課題も遅れずに提出するようになりました。

「獲得型」、「防御型」とは?

 人には主に2つのタイプの目標へのアプローチがあり、心理学ではそれを「獲得型」「防御型」と呼びます。

■獲得型:
「成功を手に入れたい」「理想を達成したい」という動機で行動し、多少のリスクをいとわずチャレンジするアプローチを好みます。
■防御型:
「失敗を避けたい」「損失を出したくない」という動機で行動し、注意深く慎重なアプローチを好みます。

 どちらかのタイプが優れているということはありません。

 たいていの人はどちらかに思考が偏りやすいため、自分自身のタイプを知ることで、やる気やパフォーマンスを高めやすくなるのです。

やる気を出してほしくて語ったのに…成功談が響かない本当の理由獲得型と防御型、感情の違い(『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』より)

理想に目を向けるか? 反面教師に目を向けるか?

 ポジティブなロールモデルは、理想の自分、望ましい自分、ポジティブな達成、向上心と関連しています。そうした特徴は、獲得型に合っています。

 一方で、ネガティブなロールモデルは、いわゆる「反面教師」で、恐れている状態、避けるべき自分、災難に遭う可能性、災難を回避するために避けるべきミスなどと関連しています。こうした特徴は、防御型に合っています。

 大学や企業が開催している就職活動セミナーでは、就職活動がうまくいった人、優れた成功を収めている人、すなわちポジティブなロールモデルが、自身の体験談などを話すことが多いですよね。

 それは、獲得型の人にとっては、就活へのモチベーションを高める糧になりますが、防御型の人にとっては逆効果になるケースがあります。

 防御型の人にとってはむしろ、就活に失敗した体験談を聞くことが効果的となるのです。

 防御型の人は、最悪の事態を思い浮かべたり、不幸な人と接触することによって、自身もそうなる運命を避けるべく、モチベーションを高めます。

 目覚ましい成功を収めたヒーローの話に触発される人もいれば、反面教師となるような失敗談を聞いてモチベーションを高める人もいるのです。

 本書『すぐやる人の頭の中』では、みなさんがどちらのタイプなのかを知るための診断方法を紹介しているほか、心理学研究に基づくモチベーションを高めるメソッドを多数紹介しています。

※本稿は、『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。