「黒川先生は過去にも何冊か脳科学系の類書を出されており、それらの理論を凝縮して読みやすくしたのが本書。『トリセツ』というタイトルは女性からすれば失礼極まりなく、画一的な対処法の提示に否定的な意見もあるため、本来なら“炎上”してもおかしくはありません。しかし、著者自身が女性かつ妻という当事者であるため、“炎上”はうまく回避されています。また、おじさん世代は学術的権威に弱いので、研究者という肩書の受けもいい。妻への理解を示しつつ男女の役割分担を線引きする内容も、おじさんとしては受け入れやすい。よくできたパッケージングの本だと思います」(稲田氏)

 最近では『妻のトリセツ』と類似した「妻関連コンテンツ」も増えている。2020年だけでも『怒られる前に知っておきたい妻の気持ちがわかる本』(宝島社)、『図解でわかる妻の取扱説明書』(エイ出版社)、『なぜ、突然妻はキレるのか?』(フォレスト2545親書)などが出版され、同様のネット記事も無数に存在している。

『妻のトリセツ』以前にも類似書は散見されるが、同書のヒットによって世の男性のニーズが鮮明に暴き出されたことは間違いないだろう。

「妻の“不可解な”言動への対応は、以前から男性向け週刊誌などで『こう言われたらこう返す』などと対症療法的に書かれてはいました。しかし現代の多くの男性は、『妻のトリセツ』のように理論立てて女性を理解する原因療法的な解決策を求めているのでしょう」

妻関連コンテンツの人気を支える
男性の下心と打算

 しかし、現代の男性はなぜここまで妻への接し方のマニュアルを欲するのだろうか。稲田氏は社会的な背景から、そのニーズを分析する。

「近年は男性だけの収入で家族を養うことが難しくなり、共働き家庭が増えました。それに伴って当然、妻の家庭内での発言力も高まり、夫も今までの表面的な対症療法だけでは夫婦間の衝突や相互不理解を解決できなくなったのでしょう。かつての専業主婦に発言権が与えられていなかったというわけではありませんが、共働きによって妻が正当な権利を主張しやすくなったのは事実。女性が強くなったわけではなく、今まで我慢してきたことを言える環境になったのです」

 稲田氏は他にも妻関連コンテンツの人気を支える要因があると指摘。そこにあるのは男性の根源的な欲求だという。