安いニッポン 売られる日本#11Photo:kuppa_rock/gettyimages

お盆休みを利用して家族や仲間と、あるいは一人で温泉地を訪れるという人は多いだろう。健やかで癒やしに満ちた温泉は、日本が誇る文化と言ってよい。この温泉に今、猛烈な勢いで海外の買いが入っている。特集『安いニッポン 買われる日本』(全24回)の#11では、海外マネーの「温泉買い」を伝える。(ジャーナリスト 高口康太)

「温泉旅館を売って!」
伊豆や箱根、富士山周辺がターゲット

「温泉旅館を買いたいという問い合わせが今、殺到している」

 こう打ち明けるのは、ホテル旅館経営研究所の辻右資代表取締役所長だ。宿泊施設の売買を仲介する同社には、今年5月だけで200件以上の問い合わせがあった。そのうち実に7割が、静岡県の伊豆や神奈川県の箱根、富士山周辺にある高級温泉旅館についての問い合わせだったという。

 問い合わせを寄せてくるのは主に、中国の富裕層を中心とする海外投資家である。需要が高いのは、規模は小さくとも木造の和風建築で庭付きのもの。ツアー旅行客を泊めるような大型宿泊施設ではなく、小規模なものの方がむしろ人気だ。何よりも「温泉があること」を条件として探しているケースが多い。

「大々的にビジネスを展開するというよりは、営業もしつつ、自分の家族や友人が楽しむ別荘のような場所にしたいというニーズだ」(辻所長)

 箱根や伊豆は東京から2時間圏内と交通の便が良い。そのエリアで温泉という日本独自の文化や広い庭、自然環境が楽しめることを考えると、中国など海外の投資家の目には格安に映るようだ。

 折しも、海外投資家が購入しやすい物件が市場に出てきている要因もある。