Sさん一家の場合
住宅ローンを組むと損をする?

 ただ、気になるのが多額の金融資産を保有しているにもかかわらず、なぜ8000万円もの住宅ローンを組む必要があるのかということです。住宅ローンを組めば住宅ローン控除が利用できますが、住宅ローン控除の年間最大控除額は年末残高の1%、上限40万円です。ご夫婦で住宅ローンを組んだとしても、控除額は最大で年間80万円(実際は住宅ローンの返済が進むので住宅ローン控除額は年々減少することになりますが)です。仮に80万円の住宅ローン控除が6年間続いたとすれば最大控除額は480万円です。

 一方、住宅ローンは6年間で完済する予定ですので、6年間の支払い利息額を合計すると約625万円になります。実際には、妻が8000万円の住宅ローン全体の半分である4000万円のローンを組むのは難しい(年収を考えると審査に通らない可能性大)でしょう。そのため、住宅ローン控除額は480万円よりかなり少ないと考えられます。住宅ローン控除額が支払利息額を上回らない、言い換えれば住宅ローン控除額が支払い利息額を数百万円下回るのですから、わざわざ損をしてまで住宅ローンを組む必要がないと思うのです。

 もし、住宅ローンを組まずに現金で(金融資産から)マイホームを購入した場合、住宅ローンの年間返済額463万2342円の6年間分、2779万4052円が金融資産にプラスされることになります。さらに、一括返済時の支出5847万円も発生しないことになります。

 住宅ローン8000万円を組まず、手持ちの金融資産で一括購入した場合を想定すると、現在の金融資産額2億2930万円から8000万円を差し引くので1億4930万円になります。この1億4930万円に、先ほど試算したSさんが退職するまでの6年間の貯蓄2156万円と、支払わなくて済む住宅ローン額2779万4052円(以下=2779万円)を加えると、1億9865万円となります。

 一方、住宅ローンを組んだ場合は、Sさんが退職する6年後に1億9239万円残る試算結果が出ました。その差が626万円あるため、住宅ローンを組まないケースの方が6年後の手持ち資金は多くなることでしょう。住宅ローン控除額を考慮しても最大で480万円ですから、結論は変わりません。

  住宅ローンを組まなければならない特別な理由がないならば、経済合理性の観点から住宅ローンは組まずに手持ちの金融資産から支払った方がよいでしょう。

 なお、今回の試算では金融資産額に保険商品は加えておりません。相談文の「1億9200万円の資金を残したい」の「資金」は、保険を含めない、貯蓄と資産運用残高の合計額である金融資産だと考えたからです。

 また、利用するシミュレーションソフトによって住宅ローンの返済額などは多少異なることがあります。実際の購入には諸経費がかかりますが、諸経費は概ね物件価格の5%前後といわれることが多いようです。頭金の記載がないため、住宅ローンの金額=物件価格と判断して試算すると、8000万円の物件の諸費用は400万円前後。一括購入の場合、6年後の金融資産額は1億9865万円ですから、諸費用を差し引いても1億9465万円が残るためSさんのご希望に沿う結果となります。

(ファイナンシャルプランナー 深野康彦)