EVで先行者利得を手に入れたい
フォルクスワーゲン

 7月14日、欧州委員会は、35年にハイブリッド車(HV)を含むガソリンエンジンなどを搭載した内燃機関車の新車販売を禁止する方針案を示した。そのインパクトは大きく、欧州自動車工業会など自動車業界は「目標設定が性急すぎる」と懸念を表明している。なお、当案が正式に欧州連合(EU)の政策に反映されるには、加盟国と欧州議会での承認が必要だ。

 注目したいのが、欧州委員会の発表以前に、独フォルクスワーゲンが35年までに欧州内での内燃機関車の販売をやめる意向を示したことだ。具体的には、6月下旬、同社取締役であるクラウス・ツェルマー氏がドイツ紙とのインタビューで、「33年から35年までに欧州で内燃機関車から撤退し、しばらく遅れて米国と中国でも同様の取り組みを進める」と述べた。VWにとっても欧州委員会の方針は厳しいだろうが、同社はかなりのスピード感をもって内燃機関からの脱却を目指している。

 VWの戦略は、まず、欧州域内の一般大衆EVセグメントで先行者利得を手に入れることだろう。その上でVWは安全性や環境性に関するEVの国際規格をリードし、世界最大の新車販売市場である中国、次いで米国でのシェアを獲得する展開を目指しているようだ。

 ドイツ経済にとっても中国経済のダイナミズムの取り込みは重要だ。そのために、VWは傘下の超高級スポーツカーブランドである「ブガッティ」をクロアチアのEVスタートアップ、リマッツ・オートモビリの傘下に置いたのだろう(まずVWとリマッツが合弁会社を設立した後に、VWは傘下のポルシェに合弁会社の株式を譲渡する)。それは、一般大衆車セグメントでのEVシフトを進めるため、「選択と集中」への意思決定といえる。

 欧州委員会のEVシフト加速化の背景の一つとして、VWの意向が与えた影響は軽視できない。欧州委員会の方針案発表後、独ダイムラーも30年に「メルセデス・ベンツ」の新車をEVにすると発表した。ドイツ以外では、スウェーデンのボルボが30年に全車EV化を表明している。