物流大手の佐川急便が中国製EVの導入を発表した。世界は脱炭素に向けて急速にEV化を進めているが、日本の自動車産業にとって無視できないマイナス面もありそうだ。その一つは、EV化によって日本が得意とする「すり合わせ技術」を生かす余地が減ってしまうこと。中長期的な展開を考えると、わが国経済を支えてきた自動車メーカーが、1990年代以降の家電業界の「二の舞い」になる展開は軽視できない。(法政大学大学院教授 真壁昭夫)
「EV化」は日本が得意な
「すり合わせ技術」の余地が減る
世界の主要国は環境問題に対応するため、脱炭素政策を推進することを明確にしている。今後、脱炭素政策は、わが国にもさまざまな分野で大きな影響を与えることになるだろう。その中で、自動車の電動化についてはかなり明確な目標が設定され、主要自動車メーカーは「ゲームチェンジ」ともいえる大きな変化への対応が必要だ。その変化にいかに対応するかによって、自動車メーカーの生き残りが決まると言っても過言ではない。
2030年までに英国はガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止するなど、電気自動車(EV)を重視する国は増えている。それをビジネスチャンスとみて、既存の自動車メーカーやIT先端企業などがEVの設計・開発、および生産に取り組んでいる。この一連の流れをEV化と呼ぶとすると、EV化は、まさに世界の自動車産業のゲームチェンジといえるだろう。
それは、わが国の自動車産業にとって無視できないマイナス面もありそうだ。その要因の一つは、EV化によって自動車の生産は、日本の自動車メーカーが得意とする「すり合わせ技術」を生かす余地が減ってしまうことだ。EVの場合は、スマートフォンのような「ユニット組み立て型」産業へと移行するとみられるためだ。
また、政府は、2030年度の温室効果ガス削減目標を2013年度比46%減に引き上げた。わが国の再生可能エネルギーの利用は遅れている。その状況下、企業が目標を達成するためには、生産拠点を海外に移さなければならない。いずれも、わが国自動車産業の強みを削ぐ。
気がかりなのは、国内の完成車メーカーがハイブリッド車などを重視し、EV化への対応が遅れていることだ。物流大手の佐川急便が中国製EVの導入を発表したことは、それを確認する機会だ。中長期的な展開を考えると、わが国経済を支えてきた自動車メーカーが、1990年代以降の家電業界の「二の舞い」になる展開は軽視できない。