野党の共和党はかねてよりケネディ政権のキューバへの対応を争点にしていた。ここへ来て、ソ連にキューバでの核兵器の追加配備を許したのは、明らかなケネディの失策である――。こうした追及を政府は無視できない状況にあった。キューバ危機時の国家安全保障会議執行委員会(エクスコム)に参加したのは14名。ケネディ大統領の実弟で司法長官のロバート、マクナマラ国防長官、ラスク国務長官、マコーンCIA長官などである。

 それぞれの組織の代表は、見ているもの、考えること、持っていきたい方向性はみな異なっていた。互いに極めて微妙で複雑な探り合い、駆け引き、誘導を行い、各人の意見が鋭く対立していた。それが高じて、強硬な立場を示す以外の選択肢がなくなりつつあった。

 断固たる態度をとらなければ、政府内の支持を失い、リーダーがいないと認識され、政策すべてに疑いが持たれ、3週間後の選挙で多くの民主党員が落選し、議会と世間の信頼を失い、ビックス湾の失敗が蒸し返され、政権の運命が尽きることが強く予測されたからである。強硬な姿勢を表明しなければ、おそらく弾劾されたであろうと大統領自身も述懐している。

 ケネディ大統領にとって幸運だったのは、ロバートという忠実かつ有能で議論をリードできる実弟が主要メンバーにいたこと、そして現代のようなSNS時代と違って、一連の軍事的危機に関する秘密が守られたということである。

 事実がもし外部に漏れたなら、政府に対して強いアクションを求める世論が充満し、空爆などの軍事アクションを起こす状況に追い込まれ、結果、キューバ駐留のソ連軍の反撃を招き、戦争へと発展した可能性が高かっただろう。

ケネディ政権の決定に見る
国家の危機対応への途方もない難しさ

 これらの3つのモデルは、政府の意思決定の本質を分析するためのフレームワークである。もともとは研究用の概念だが、これらを通して理解できることは、国家の危機対応の途方もない難しさである。今回、我々は新型コロナ対策において、政府の意思決定や情報公開のあり方、様々なお役所対応に不満を募らせた。

 合理的アクターモデルでは、ケネディ政権は6つの選択肢を案出し、効果的な結論を導き出すことができたわけだが、そこには「国益とは何か」をしっかりと考えて安易に結論を出すことのないリーダーたちがいて、自分の責任で意思決定をした大統領がいた。