リチウム電池工場「ギガファクトリー」を
世界展開する胆力

 テスラのギガファクトリーも、イーロンの「超積極的リスクテイク」の経営姿勢を示す良い例だろう。テスラは2014年に、ネバダ州に世界最大のリチウム電池工場「ギガファクトリー」の建設を始めた。フル操業時には年間50万台のテスラEVにバッテリー供給が可能となる規模で、世界が驚いた。

 その上、ギガファクトリーの総工費は、50億ドルだった。これは、テスラの前年の年間売り上げの2倍以上に値する。ちなみに、当時の大手自動車メーカーの経営者は誰一人として、EVに確固たる市場があるとは思っていなかった。

 だからこそ業界の専門家は「そんな巨大工場は、需要が見えてから建てるべきものだ」と警鐘を鳴らし、電池の研究者は「リチウム電池を大量生産しても電池性能は今以上にはアップしない」と嘲(あざけ)った。

 だが、「EVの出荷能力は、リチウム電池の生産数量で決まる」と考えるイーロンの主張は正しかった。ギガファクトリーの電池生産数量のアップとともにテスラEVは販売を拡大した。ギガネバダだけでなく、中国上海にギガ上海も完成させ、さらにドイツではベルリンに、米国ではテキサス州オースチンにもギガファクトリーの展開を進行させている。

 そして、イーロンは「世界で1億台のテスラEVを走らせる」計画を立てている。具体的にはリチウム電池生産能力を現在の35GWhから、2022年には100GWhへ、そして2030年には3テラWh(3,000GWh)へと拡大していき、20テラWhを目指すという。

 手がける事業がスペースXでもテスラでも、イーロンの経営スタンスは変わらない。自分が正しいと信じることのためなら、すべてを失うリスクがあっても、ためらわず実行する。

 それゆえ、他社にない「スピードの速さ」と「スケールの壮大さ」が実現できる。

 別のコラム『イーロン・マスクが自動車とロケット業界に持ち込んだ「禁断の手法」とは?』で解き明かしたように、テスラとスペースXでベストエフォート型が実践できるのも、この「超積極的リスクテイク」の経営姿勢が根底にあるからだ。

(経営コンサルタント 竹内一正)

(本原稿は、書籍『TECHNOKING イーロン・マスク 奇跡を呼び込む光速経営』の一部を抜粋・編集して掲載しています)