EVが普及するなら
テスラが潰れても構わない
イーロンの「超積極的リスクテイク」の姿勢は、テスラの特許無償公開にも見て取れる。イーロンは、テスラ1社だけではEVの普及スピードが十分でないと考えた2014年、所有していたEV特許全てを無償で公開することを決断し、他社のEV市場参入を促した。
だがこの時、テスラ社内では、特許の無償公開に反対する社員が相次いでいた。企業経営の常識で考えれば、社員たちの反対はもっともだった。長年苦労して生み出した技術の結晶が「特許」だ。強力な特許を保有していれば、それだけで特許使用料も入ってくる。
なにより、特許は自社製品を中国企業などのパクリから守る防波堤だ。例えばゼロックス社が特許でコピー業界を長年支配したことは有名だし、IBMは2000年に特許収入だけで約17億ドルを稼ぎ出したこともある。
しかし、テスラEV特許の無償公開を決めたイーロンは、「EVが普及するなら、テスラが潰れても構わない」と言い放った。イーロンにとってテスラは、地球温暖化を食い止めることを目指し、ガソリン車に代わりEVを普及させるために作った会社だ。
EV特許を公開し、他社がどんどんEV市場に参入し、そのためにテスラの業績が悪化しても、結果としてEVが世界中で走るようになればよいと考えたのだが、これは20世紀の経営ではあり得ない考え方だった。