周囲の反対を押し切り
スペースXはNASAを訴えた
NASAの幹部たちを前にイーロンは、NASAが交わしたキスラー社との随意契約はけしからんと米会計検査院に異議を申し立て、訴訟を起こすと息巻いた。
創業からわずか2年。まだロケットを一つも打ち上げていないスペースXにとって、NASAはロケット開発の師匠であり、一番大事な将来の顧客だ。
結果は明らかだった。
話し合いの席でNASAの幹部は、そんな訴訟はスペースXの利益にはならないと諭した。「それでも、もし、NASAを訴えるというなら、スペースXとは絶対に仕事はしないぞ」とおどした。
もちろん、スペースX社内でも社員全員がこぞってイーロンに反対し、「最重要な顧客を敵に回すべきじゃないです」 と懸命に説得したが、イーロンは「これは競争入札で決めるべき契約だ。ところが、そうなっていなかった!」と聞く耳を持たなかった。
スペースXにとって一番大切な顧客のNASAを訴えて、よしんば勝っても、何の得にもならないことは明らかだった。しかし、イーロンは躊躇(ちゅうちょ)することなく、NASAを訴えた。
自分が信じることのためには、何のためらいもなくリスクを冒すのがイーロン・マスクだった。これこそが彼の経営姿勢の本質であり、以降、ビジネスのあらゆる局面で貫かれていく。
この点を正しく理解していないと、イーロン・マスクの言動は、ふつうの人たちには奇異に映ったり、大ボラや、きれいごとを言っているだけと勘違いされてしまう。