イーロンの経営スタイルは
「捨て身」か、「超積極的リスクテイク」か

 ところで、NASA訴訟の結果はというと…、世間の予想を覆してスペースXの勝利となった。契約内容を審査した米会計検査院は、NASAにキスラー社との契約を破棄するよう命じたのだった。

 自分が正しいと信じることのためなら、すべてを失うリスクがあってもためらわず実行するイーロンの姿勢は、スペースXの社員たちは無論のこと、NASAにも強烈なインパクトを与えた。

 スペースXは最初のロケット「ファルコン1」の打ち上げに3度続けて失敗した。その間、イーロンは個人資産をつぎ込んでこれを支えたが、カネはみるみる減っていき、もし、次の打ち上げに失敗したらイーロンの資産は底を突き、スペースXは倒産しかねない崖っぷちに立たされた。この時点で諦めると思った人は多かったが、イーロンは4回目の打ち上げに挑み、見事に成功を獲得した。

 イーロンの経営スタイルは、悪く言えば、のるかそるかの「捨て身の経営」であり、良く言うと「超積極的リスクテイク経営」である。

 そうだからといって、彼は博打を打っているのではない。物理学的思考で徹底的に考え抜いて決断を下している。そして、目標を掲げたら、ぶれることなく激走していく。

 だから、NASAが57年の歴史で一度も試みたことさえないロケット再利用を、スペースXはわずか創業13年で成し遂げ、テスラは12年間でEVの年間販売台数を5,000倍にも増やすことができたのだ。

赤字にもかかわらず
高速充電ステーションを全米に展開

 自分が正しいと信じることのためなら、すべてを失うリスクがあっても、ためらわず実行する姿勢はイーロンの手がける事業のいたるところで垣間見える。

 例えば、電気自動車テスラ用の高速充電ステーション「スーパーチャージャー・ステーション」がそうだ。ガソリン車を作る自動車メーカーは「ガソリンスタンド」を作らなかったことを考えると、これは画期的な決断だ。ガソリンスタンドを作るのは石油会社の仕事だったからだ。

 そして、EV普及のカギは充電ステーションにあるとみんな分かってはいたが、どこも重い腰を上げなかった。

 そんな状況の中で、イーロンは他社に先駆け、2013年にスーパーチャージャー・ステーションの全米展開を開始した。

 実は、当時のテスラは赤字で、発売を開始したモデルSの工場運営の資金繰りにも苦労していた。そんな状態で高速充電ステーションを展開すると決めたものだから、「費用負担が大きすぎて、テスラの経営を危うくする」と専門家たちは批判した。

 だが、受けた批判を蹴散らすように、スーパーチャージャー・ステーションは、EV販売を加速する起爆剤になっていった。