ロケットを一度も打ち上げてもいないベンチャー企業のスペースXが、あろうことか宇宙開発の総本山NASAにけんかを売ったことに業界関係者は驚き、呆れた。

 発端は、キスラー・エアロスペース社(以下キスラー社と記述)が、NASAとロケット打ち上げに関して2億2700万ドルの随意契約を交わしたことだった。

 キスラー社のCEOジョージ・ミュラーはNASAの要職を務め、スペースシャトル計画では中心的役割を果たした超有名人物であり、ニクソン大統領から国家科学賞を授与されたこともあった。そして、ミュラーはNASA退官後、キスラー社のCEOの座に2004年に就いた。ところが、キスラー社は前年に6億ドルの債務返済が滞り、破産申請をしていたのだ。

 そんなキスラー社にとってNASAとの2億ドルを超える随意契約は、CEOがミュラーゆえのNASAからの救済金と業界は感じ取った。そして、そんなことは珍しくないと受け流していた。

 ところが、キスラー社の随意契約を知ったイーロン・マスクは黙っていなかった。

 この頃のスペースXはNASAからの資金援助はなく、イーロンの個人資産でファルコンロケット開発を必死にやっていたからだ。NASAとキスラー社の契約が競争入札ではなく随意契約だと分かると「これは不正じゃないか!」と激怒したイーロンは、あろうことかNASA本部に乗り込んだ。