スーツ専門店が「脱スーツ」に全力を挙げている。年々売れ行きが落ちる郊外のスーツ専門店を畳み、抜群の立地を生かして飲食店やネットカフェなどの“副業”にいそしんでいる。スーツ専門店から華麗なる転身を遂げ、生き残るのはどこか。また、淘汰されるのはどこか。特集『スーツ 消滅と混沌』(全8回)の#5では、各社の思惑を探る。(ダイヤモンド編集部 相馬留美)
スーツ専門店4社は営業赤字に転落
お家騒動はるやまは「創業以来、最大の危機」
「治山正史社長(当時)がクリーニング店を始めると言った辺りから会社がおかしくなった」――。
そう振り返るのは、“お家騒動”に揺れたスーツ専門店大手、はるやまホールディングス(HD)の元幹部だ。
6月29日のはるやまHDの株主総会で、創業者の長男で前社長の治山正史氏の取締役再任案は、賛成率57.55%と僅差で可決。正史氏は会長に就き、同業のスーツ専門店AOKIホールディングス(HD)の販売子会社AOKI元社長の中村宏明氏が社長に就任するという異例の人事が決まった。
正史氏の支持率がここまで低かったのは、正史氏の姉である岩渕典子氏など創業家の大株主が、「創業以来、最大の危機」と訴え、反対票を投じたからだ。こうした事態の背景には、正史氏が多角化を目指したものの迷走し、経営の混乱を招いたことがある。
新型コロナウイルスの感染拡大により、スーツ専門店4社(青山商事、AOKI HD、コナカ、はるやまHD)の直近の通期決算はそろって営業赤字に転落した(2021年3月期。コナカは20年9月期)。
結婚式などの式典の延期・キャンセル、就職活動やリモートワークによる通勤の減少でスーツの販売に大苦戦したことが最大の要因だ。ただし、各社の事業内容を検証していくと、同じスーツ専門店であっても苦境の度合いには“格差”があり、「脱スーツ」の成否が企業の先行きを左右しつつある。