鎌田敬介鎌田敬介(かまた・けいすけ)氏。Armoris 取締役CTO、『サイバーセキュリティマネジメント入門』著者、元ゲーマー。学生時代にITを学び、社会人になってからセキュリティの世界へ入る。20代後半から国際会議での講演や運営に関与しながら、国際連携や海外セキュリティ機関の設立を支援。2011~14年 三菱東京UFJ銀行のIT・サイバーセキュリティ管理に従事。その後、金融ISAC創設時から参画。金融庁参与も務める。 Photo by K.K.

鎌田 従来型の日本企業の人たちは形式的なことに興味を持つ、ということがまず言えます。そして海外と比較しなくても、日本でも今風な企業の人たちは、実質的なことに興味があるように思います。形式的なことというのは、服装はスーツにネクタイとか、毎朝9時に出社するとか、仕事のやりとりは会社のメールアドレスでないといけないとか。業務効率が改善する可能性があるのに、そこから逸脱してやろうとは思わない。今風な人たちは、メールでなくてもメッセンジャーやチャットなど、より速く快適に連絡がとれればよいと考えています。

 どうってことのない違いに思えるかもしれませんが、これが実際のビジネススピードに大きく影響するんです。ある日本企業が東南アジアの国の通信省の役人とアポを取るのに公式ルートで3カ月かかりました。一方、私に知り合いのツテがあってLINEから連絡したところ、たった5分でアポが取れてしまったんです。

酒井 それは大きな差ですね。私も普段、「LINEで5分」な人たちと働くことが多いのですが、久しぶりにそうでない人と接すると、面倒くささを感じてしまいます。

鎌田 私もそうです。グローバルでも、「きちんと手順は踏むけれどそのぶん遅い企業」はもう相手にされなくなると思いますよ。

酒井 形式を重視するあまり損をする例は他にもありそうですね。

鎌田 ある日本の大企業が、海外のクラウドサービスを使いたいとなったとき、そこの営業に来てほしいんだけど、日本に担当者がいなかったんです。簡単な説明をしてくれる人も置いていません。じゃあ見積もりを作ってくれと言っても、見積もりも作ってくれません。どうすればいいんだと聞いたら、「試しに使ってみて、よかったら買ってください」と。

 しかしその企業には、そんなふうにサービスを買う習慣がなく、旧来の商慣習を踏襲するために、別のIT商社に見積もりを作らせて、毎月1500円で済むサービスに何倍ものお金を払ってようやく使えるようにしていたんです。

酒井 コスト削減を重視しているのに、形式を守るために平気で無駄遣いをしてしまうと。

鎌田 しかも、無自覚でやっているケースが多い。見積書にハンコが必要というのも形式的ですし、本当は見積書なんてなくてもメールに金額が書いてあるだけで事足りるはずです。

酒井 「日本企業は失敗を恐れる」とはよく言われますが、そういった組織文化がDXを阻害することもあるのでしょうか?