新型コロナウイルス感染症の拡大はエッセンシャルワークとしての物流の重要性を再認識させた。しかし、トラックドライバーをはじめ物流の担い手の減少は深刻化し、このまま放置すれば供給制約と物流コストの上昇によって、わが国の企業競争力は大きく低下するリスクをはらんでいる。「物流危機」から「物流崩壊」への移行を食い止める手立てはあるのか――。経済産業省商務サービスグループの中野剛志消費・流通政策課長兼物流企画室長に聞いた。(インタビュアー/石井麻里・吉野俊彦)
【本稿は前編です】
物流サービス価格はバブル期を上回る
――物流の供給制約によるサプライチェーンの機能不全は、経済活動や消費を脅かすリスクとなります。物流の需要動向や産業構造の変化をどう見ていらっしゃいますか。
中野 日銀が発表している企業向けサービス価格指数の推移を見ますと、企業向けサービス価格の総平均はバブルが崩壊した直後の1990年代の初頭がピークで、93年をピークにその後は下落が続いていました。経済再生やデフレ脱却を掲げたアベノミクスや人手不足を背景に、企業向けサービス価格は2014年以降、上昇してはいるものの、バブル期の水準には届かず、2000年頃と同じ水準です。
一方、道路貨物輸送サービスの価格を見ると、企業向けサービス価格と同じように、1980年代後半からバブル期にかけて上昇し、その後は低下していました。90年に物流二法の施行による規制緩和が行われ、事業者間の競争が激化した結果、道路貨物輸送サービス価格は長らく低迷し、それが上昇に転じたのが2014年頃です。
――消費増税前の駆け込み需要があり、ドライバー不足が一気に顕在化した時期と重なります。
中野 14年以降の道路貨物輸送サービス価格はバブル期を上回る、過去最高の水準となっています。景気低迷でデフレから脱却できず、企業向けサービス価格はバブル期とは程遠い水準にとどまっているのに、人手不足や輸送需要拡大を背景に道路貨物輸送のサービス価格だけが高騰している状況です。足元では新型コロナウイルス感染症の影響で横ばいとなっていますが、20年代後半以降、さらに価格が上昇することが予測されます。これはかなり恐るべき事態です。