貸出先不足に苦しめられていた銀行業界にとって、世界的な「脱炭素シフト」は業績アップを見込める一大商機だ。脱炭素向けの資金需要の“激増”に備えて、銀行各行は顧客発掘に余念がない。だが、脱炭素関連の技術や設備投資は返済可能性が読みにくく、貸し出し条件の設定が難しいことも事実だ。特集『脱炭素地獄』(全19回)の#15では、銀行が足を踏み入れる“新境地”での「仁義なき顧客獲得合戦」を追った。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
脱炭素に必要な投資額は年間450兆円!?
銀行に一大商機が訪れた
「銀行は、脱炭素で新境地に足を踏み入れることになる」。加藤晶弘・三菱UFJ銀行サステナブルビジネス部長は、覚悟の表情でそう語った。
世界に押し寄せる脱炭素の潮流により、銀行業界に絶好の商機が到来している。邦銀は日本経済の成熟化と企業のカネ余りのダブルパンチで、長らく貸出先不足に悩まされてきた。だが、脱炭素社会の到来で状況が一変。資金需要の激増が見込めるようになっているのだ。
脱炭素シフトにはカネがかかる。排出を抑えられない二酸化炭素を回収して有効活用する仕組みを作るにも、クリーン電力を供給するために水素サプライチェーンを築くにも、企業にとっては巨額の資金が不可欠となる。
実際に10月13日、国際エネルギー機関(IEA)がエネルギーの脱炭素化に必要な投資額として示したのは、とてつもなく大きな金額だった。その額、なんと年間4兆ドル(約450兆円)である。
こうした市場沸騰の商機を逃すまいと、3メガバンクと政府系金融機関の日本政策投資銀行(DBJ)はサステナブルファイナンスの目標額を引き上げており、2030年あたりでその規模は累計100兆円に拡大する見込みだ。
だが、加藤氏の面持ちが物語っているように、浮かれてばかりはいられない。銀行業界では今、まさに“新境地”での仁義なき顧客獲得合戦が繰り広げられようとしているのだ。
その最前線の動きを追う。