税務署が目を付けた
「不自然な行動」とは?

 先述の通り、現金は移動が容易なため、その行方に税務署は神経を尖らせている。

 だからこそ、不自然な行動をとるとすぐにチェックされる。「藪をつついて蛇を出す」のことわざのように、余計なことをすると税務調査で指摘を受ける羽目になる。

 例えばこんな人がいた。

 銀行のATMでは、「まずお金を出金して、そのお金をどこかに入金する」という流れが普通だと思う。だがその人は逆に、「まずお金を入金してから、同じだけの金額を出金していた」のだ。

 なぜそんなおかしな行動をしていたのだろうか?

 実はこの人、ATMにまず「旧札」を入金し、その後に「新札」を出金していたのだった。

 おそらく、自宅や貸金庫に旧札で多額の現金を保管していたのだろう。「旧札で持っていると、税務調査に入られたときに昔のお金だと分かってしまう」と考えたに違いない。

 そのためATMで旧札を入金し、新札で出金するという作業を、1日の限度額の範囲内で繰り返し行っていたようだ。

 税務調査では「先に入金して後から出金する」という不自然な行為の指摘を受け、被相続人が現金を旧札で保管していたことを認めざるを得なくなり、修正申告を余儀なくされた。
 
 知恵が回りすぎて墓穴を掘ってしまった感じだが、不自然な行動は、当局が見逃さないだろう。

貸金庫にも要注意!
あらぬ疑いをかけられることも…

 銀行にはATMコーナーをはじめ、ありとあらゆる所に防犯カメラが設置されているため、私たちの行動は全て記録されていると思ったほうがよい。

 金融機関は、税務署の依頼があると、防犯カメラの映像はもちろん、口座の入出金記録などさまざまな情報を提供しなければならない。税務調査の際にはそのことを頭に入れ、金融機関を介した行為は全て知られていると思っておくほうがよいだろう。

 また、現金や貴重品の安全な保管場所としては、銀行の貸金庫を利用している人もいるかもしれない。私は貸金庫を利用している顧客に対しては、「貸金庫の中に何が入っているかを、いつも正確に把握しておいたほうがいいですよ」とアドバイスしている。

 銀行の貸金庫にはカメラによる映像はもちろん、開閉記録もきちんと残っている。例えば、税務調査の連絡を受けた相続人が、「そういえば貸金庫には何があっただろうか?」と思って確認のために貸金庫を開けたとしよう。

 すると税務署は、銀行から取り寄せた貸金庫の開閉記録を見てある疑問を持つ。