「敵基地攻撃」の効果は疑問
ミサイル発射準備の監視は至難

 岸田文雄首相は選挙公約で、「相手の領域内で弾道ミサイルを阻止する能力を保有し、抑止力を向上する」と公表している。自民党議員にも「敵基地攻撃」を唱える人々が多い。

 この状況を考えると、急増する装備費の大半は敵基地攻撃能力を整備するのに向けられそうな形勢だ。

 だが攻撃をするにはまず敵の精密な位置を知ることが不可欠だ。自衛隊の将官の中にも偵察衛星で北朝鮮が日本に対し弾道ミサイルを発射しようとする状況が分かるように思っている人がいた。

 だが、偵察衛星は時速約2万7000キロで南北方向に地球を約90分で周回し、毎日1回同じ時刻に同地点上空を通過するから、目標地点を撮影できるのはカメラの首振り機能を生かしても1日1分程度だ。

「静止衛星ではだめなのか」と質問されることも多いが、答えは「ノー」だ。

 静止衛星は赤道上空約3万6000キロメートル、地球の直径の約3倍の高度で周回し、その高度では地球の自転の速度と同調するから、地表からは止まっているように見える。

 無線の中継などには有効だが、当然その距離ではミサイルが見えるはずがない。発射の際に出る大量の赤外線を感知できるだけだからミサイル発射前に攻撃するには役に立たない。

 ジェットエンジン付きの大型グライダーのような無人偵察機を、例えば、北朝鮮の上空で旋回させておけば常時監視が可能だが、領空侵犯だから対空ミサイルで簡単に撃墜される。無人偵察機が役に立つのは大型の対空ミサイルを持たないゲリラに対してだけだ。

 領空外の海上などから無人偵察機が撮影しようとしても、日本海から北朝鮮の北部山岳地帯までは300キロもある。山腹のトンネルに潜むミサイル発射機が谷間に出てミサイルを立て発射するのは山の陰になるから発見できる公算は乏しい。

 まして中国を想定すれば、はるか内陸に配備されたミサイルを監視することはほぼ不可能だ。

 小型の衛星を多数周回させる案も米国ではあるが、24時間中の1分ほどしか目標地域の上空にいない衛星で常時監視をするために10分ごとに撮影するとすれば百個以上の衛星が必要だ。

 しかも小型衛星のカメラやレーダーは解像力が低く、相手はダミーを使うから実効性は疑わしい。

発見できたとしても意図は分からず
法律論だけの「机上の空論」

 1991年の湾岸戦争でイラク軍はソ連が開発した短距離弾道ミサイル「スカッド」の改良型「アル・フセイン」88発を発射した。

 米英空軍は1日平均64機の戦闘機などを「スカッド・ハント」に出動させ、イラク南部と西部のミサイル発射地域を監視、また特殊部隊を丘に潜伏させて見張らせたが、発射前にミサイルを破壊できたのは1基だけだった。