知識を得るために必要な力が読解力です。新しい大学入試は問題文が長くなり、複数の資料から情報を読み取るなど問題構成に変化があったことはお伝えしましたが、それは「考える」前段階に必要な情報収集、すなわち読解力があるかどうかを測るためです。

 判断力は「こうだと決める力」です。スマホ一つでありとあらゆる情報を手に入れられる今、正しい情報を的確に見極める力がこれまで以上に必要になっています。この力が不足していると、すぐに他人の意見に流されたり、善悪の判断がつかずに人間関係がこじれてしまったりするなど、不本意な事態に巻き込まれてしまいます。

 物事を判断するには、現在の状況を把握し、いくつかの選択肢を比較し、そのうえで「自分はこうだ」と決断する力が必要です。「自分で判断し、決断する」ことは、自分の人生を主体的に生きることにもつながります。

 表現力は、「さまざまなものをアウトプットする力」です。人は一人で生きてはいけません。さまざまな人間関係の中を生きていくには、自分の考えを相手に的確に伝える力が必要です。

 コミュニケーションをとるうえで気をつけなければいけないのが、「事実」と「意見」を分けること。論理的に話せない人は、事実と自分の推測や意見を整理せずに話す傾向があります。そうすると話の内容が事実ではなくなり、相手に正確に伝わらないだけでなく、誤解から人間関係のトラブルも起きやすくなります。

 人と人のコミュニケーションを円滑にするには、正しい伝え方を身につける必要があります。特にグローバル化が進んでいる昨今、日本人特有の「察する力」を相手には期待できないので、筋道を立てて伝える力を身につけていかなければなりません。

大学入試が変われば日本の教育も変わる

 社会の変化に応じて10年に一度改訂される学習指導要領。「ゆとり教育」から「脱ゆとり教育」へと試行錯誤が続きましたが、どの時期の学習指導要領を見ても、「主体的な学び」や「思考力」「判断力」「表現力」が大事であるといった内容自体は間違っていなかった、と私は思っています。

 しかし、いくら目標を掲げても、それが実行できなければ理想論で終わってしまいます私自身、ゆとり教育が導入された当時は現場の教師でしたが、個々の裁量に任されている部分が多く、困惑したものです。