これは習氏が、10月9日、北京で開かれた辛亥革命110周年の記念式典で、「台湾統一を必ず成し遂げる」と演説したことや、連日のように台湾の防空識別圏内、あるいは沖縄県の尖閣諸島近海に軍用機や船を侵入させていることなどが影響したものとみられる。

 当然ながら当事者の台湾は、防衛力強化に全力を挙げている。アメリカがアフガニスタンからの撤退を決めた8月、台湾では「アメリカ頼みではいられない」との声が上がり、蔡英文総統は「台湾の唯一の選択は自らをより強くすること」とする談話を発表している。

 中国人民解放軍の総兵力は約204万人で、台湾は約21万人にすぎない。海上戦力や航空戦力でも、中国は台湾を圧倒している。しかし、台湾は荒れた海に囲まれ起伏に富む海岸線を持つ天然の要害である。正面から組み合わなければ海上で迎撃できるとの見方もある。

 そのうえ台湾の国防部は、特別予算案を立法院に提出して高速艦艇の建造や長距離ミサイルの量産などを急ぎ、外交面でもEU諸国を巻き込み関係強化に動いている。

尖閣有事も視野に
現実的な議論を

 対して、日本はどうか。

 中国は、決して負けることができない台湾侵攻に出る際、いきなり本島ではなく、攻略しやすい島嶼部(太平島、金門島、馬祖島)、さらには尖閣諸島に狙いを定めてくるかもしれない。そのことは、自衛隊のトップである統合幕僚長を務めた河野克俊氏も、筆者の取材に「最初に尖閣諸島、あるいは台湾と同時侵攻もあり得る」と語っている。

 ただ、日本の場合、2020年に地上配備型迎撃システム「イージスアショア」の導入を断念して以降、防衛力強化は足踏み状態が続いている。

 防衛省は11月12日、岸田文雄首相が打ち出した「敵基地攻撃」の是非などを議論する「防衛力強化加速会議」を新設し協議を始めたが、年末にかけての概算要求で防衛費の大幅アップは期待薄だ。