みずほ 退場宣告#8Photo:Bloomberg/gettyimages

今年2月以降、システム障害を頻発させているみずほフィナンシャルグループ(FG)。坂井辰史・みずほFG社長は11月26日、来年3月末での辞任を表明したが、実はみずほ上層部は最後の最後まで「坂井氏温存」の選択肢を捨てていなかったとされる。背景にあったのが、営業店改革だ。だがそれは、みずほの今後の命運をも握る“劇薬”といえた。特集『みずほ 退場宣告』(全8回)の最終回では、坂井氏が行おうとした改革の真意を解き明かす。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)

最後までもつれたみずほの「トップ辞任論」
それほど強烈だった社長の構造改革

「ここで坂井(辰史・みずほフィナンシャルグループ〈FG〉)社長を降ろすのはもったいない」(みずほ上層部)

 11月26日、今年2月以降、システム障害を頻発させているみずほFGは坂井社長の来年3月末での辞任を発表した。だが、トップ人事を巡るみずほ上層部の議論は、最後の最後までもつれていたようだ。

 金融庁は、システム障害の原因をすぐに特定できないみずほのシステム部門の脆弱性や、障害が起こったときの顧客対応の悪さに激怒。そのため、全責任を負う立場にある坂井社長の辞任を求める声は、割と早くから上がっていた。「坂井社長が経営トップとして『けじめ』をつけなければ、社内外の納得が得られず、みずほが持たない」(金融庁幹部)というのが理由だ。

 これに対して、悩みに悩んだのが、指名委員会を構成する社外取締役を中心としたみずほの経営上層部だ。

 金融庁が民間銀行の人事に直接的に介入してくることはさすがにないものの、銀行はあくまでも規制業種だ。金融庁の意向を察し、酌まないわけにはいかない。それでも、社外取は「坂井社長“温存”」の選択肢を最後まで捨てていなかったとされる。

 それは、坂井社長の構造改革を支持する向きが社内外に多かったからだ。金融庁の満足する人事を行ったからといって、金融庁がみずほの業績に責任を取ってくれるわけではない――。みずほの社外取周辺ではそんな“現実論”が交わされていたという。

 実際に坂井氏の構造改革は、うまくいけばみずほに貼られた「メガバンク万年3位」の不名誉なレッテルを剥がし得る、強烈なものだった。

 その一つが、本特集#7『みずほが銀・信・証の大企業営業を同時解体した理由、企業の「みずほ離れ」阻止へ正念場』で詳述した大企業営業の大改造だ。その一環として坂井氏は銀行の法人営業部の伝統だった「ナンバー部」まで解体したが、実はみずほでは今、坂井氏主導でもう一つ大きな構造改革が行われている。

 ずばり、営業店改革だ。5月、一連のシステム障害で個人向け、中堅・中小企業向け業務を展開する営業店が揺れに揺れる中でも、みずほは計画のわずか1カ月遅れでこの改革を断行した。

「新営業店体制への移行については時間をかけて準備を進めてきたし、システムへの負荷が大きくないことも分かっていた」。みずほ幹部はそう説明するが、性急ともいえる決断を一つ取っても、営業店改革がみずほにとって待ったなしの重要施策だと位置付けられていたことがうかがえる。

 だが、この改革は“劇薬”だ。別のみずほ幹部は、「メガバンクが抱えてきた大問題を解決し得る超合理策である半面、ワークしなければ顧客離れが起きるだけで将来に禍根を残す『もろ刃の剣』だ」と神妙に語る。

 すでに、営業店改革の波紋は行内のみならず、顧客にも広がっており、「不便になったじゃないか!」といった怒りの声が上がることもしばしばだ。次ページでは、そんな非難を覚悟してでもみずほが改革に臨んだ真意について解き明かす。