みずほフィナンシャルグループで頻発したシステム障害。金融庁は同社のガバナンスや企業風土、坂井辰史社長が進めた構造改革が問題だと指摘するが、根本的な原因は何だったのか。特集『みずほ 退場宣告』(全8回)の#3では、障害を繰り返すみずほの深層を探った。(ダイヤモンド編集部 片田江康男)
3度目の大規模システム障害
その根本的な原因は何だったのか
2021年2月28日午前、全国各地のみずほ銀行のATM(現金自動預払機)前では、怒りや焦り、困惑の表情を浮かべ、途方に暮れる利用者が見られた。それもそのはずだ。みずほ銀行でシステム障害が発生したことにより、最大4318台のATMが使用不能となり、キャッシュカードや通帳が取り込まれたまま戻ってこない事案が5244件も生じていたからだ。
システム障害の引き金は、みずほ銀行が午前8時過ぎから始めていた集中記帳作業だった。口座開設時に通帳を発行しない「みずほe-口座」への一括切り替えのための作業だったのだが、9時50分にデータ容量が超過してしまった。
ちょうどそのタイミングでATMを使っていた顧客は不運としか言いようがない。ATMセンターは休日体制のため、オペレーターは東京と大阪で計わずか8人。そんな体制で、全国で発生した大騒動に対応できるわけがない。4~5時間、ATMの前で足止めを食らった利用者も珍しくなかった。
システム上の全てのエラーや障害が解消され、通常通りに復旧したのは翌日午前7時だ。だが、システム障害はこれで終わりではなかった。みずほでは9月にかけて、合計8回のシステム障害が発生したのだ。
当然、金融庁は怒り心頭に発し、みずほ銀行とその持ち株会社であるみずほフィナンシャルグループ(FG)に対して2度の業務改善命令を発出した。改善命令でガバナンスと企業風土がシステム障害の真因であると指摘されたみずほでは11月26日、坂井辰史・FG社長やグループCIOである石井哲執行役などが、引責辞任の決断に追い込まれた。
そもそもみずほの新勘定系システム「MINORI」は、デジタル化によって金融のビジネスモデルが根底から変わっていく時代に対応すべく、社運を懸けて開発した同社の屋台骨だ。
だからこそ、MINORIの開発フェーズでは、システム部門はリテール部門とプロジェクトチームまで組み、密に議論を重ねていた。デジタル化による顧客とのやりとりの急激な変化に直面するリテール部門の意見を聞き、MINORIを実務に即したシステムに仕上げるためだ。
総投資額は4000億円超、開発に投入されたエンジニアはピーク時に7000人――。MINORIは正真正銘、みずほの一大プロジェクトといえた。
そんなMINORIが全面稼働したのは19年7月。それ以降、21年2月まで大きな障害は発生しなかったことが、逆に“落とし穴”となった面は否めない。「開発とリリースがあまりにもうまくいったため、『これで大丈夫だ』と気を抜いてしまったのかもしれない」。みずほ内部からは、当時組織内で生まれていた慢心に対する悔恨の声が聞こえてくる。
それにしても今回、なぜみずほではこうもシステム障害が頻発したのか。
「構造改革で、システム部門の人員削減を急いだから」「MINORIが複数のITベンダーの製品を組み合わせたマルチベンダーだから」「MINORIそのものに欠陥があるから」。みずほ社外ではシステム障害の原因についてさまざまな指摘や臆測が飛び交った。しかし結論から言えば、そのどれもが少し間違っている。
MINORIを巡る「根本的な失敗」とは何だったのか。次ページでは、みずほがMINORIで犯した“痛恨のミス”をつまびらかにする。