「細胞への侵入を防ぐ」既存の抗体医薬
オミクロン株で明暗分かれる可能性も

 他方、変異の影響をまともに受けそうなのが、「ウイルスが細胞に侵入するのを防ぐ」仕組みの治療薬だ。

 共に国内で薬事承認されている軽症・中等症向けのモノクローナル抗体薬、「ソトロビマブ」と「ロナプリーブ」がそれにあたる。

 ウイルスが細胞に取り付くのに先んじて抗体薬がウイルスに取り付き、他の細胞への感染の広がりを阻止し、重症化を防ぐ。軽症・中等症の新型コロナ患者で、かつ重症化リスクが高いと考えられる人(糖尿病、肥満、高血圧、透析など)に対して使用される。

 ただしこの二つは、オミクロン株への効果では明暗が分かれる可能性もあるという。

 ソトロビマブについては、オミクロン株にも有効との見方を英グラクソ・スミスクライン(GSK)が表明している。ヒトでの臨床試験より前に、オミクロン株の持つ主要な変異を含む疑似ウイルスを使い、効果を得られることを確認済みというのがその根拠だ。ただし、点滴薬なので使いやすいとは言い難い。

 一方、スイスのロシュと中外製薬が実用化したロナプリーブは、点滴の他に注射薬もあり、外来でも使用できる。細胞実験では、アルファ株やベータ株、デルタ株など13もの従来の変異株に対し有効性が示され、発症予防の効果も認められている。

 だが、オミクロン株に対しては旗色が悪い。

 ロナプリーブは、「カシリビマブ」と「イムデビマブ」という二つの抗体薬をセットで使う「抗体カクテル療法(中和抗体療法)」薬だ。オミクロン株では、カシリビマブとイムデビマブがそれぞれ結合する部位にも変異が入ってしまっていて、うまく作用しないともいわれている。

オミクロン株は重症化しにくい?
感染拡大にむしろ希望が見える理由

 こうして懸念が先立つオミクロン株だが、筆者は、得体の知れない不安の中にも光が見えつつあるのではないかと感じている。

 よりどころは、各所から聞こえてくる「重症化しづらい」という情報だ。

 米政府首席医療顧問のアンソニー・ファウチ氏も12月7日、オミクロン株の重症度について、「判断には数週間かかるが、初期データからはデルタ株よりも高くないことが示されており、デルタ株より低い可能性もある」と、AFP通信に対して見解を述べた。

 欧州などでは死亡例も確認されていない。

 もちろん、ほとんどが軽症だとすれば、市中には把握されているよりもっと感染は広がっているだろう。風邪と思いこんだり無症状だったりして、検査を受けていない人も多いはずだからだ。

 欧州疾病管理予防センター(ECDC)の分析では、オミクロン株は数カ月以内に欧州での感染の半分超に達するという見通しだ(ロイター)

 だが、感染の広がりさえも悲観材料とは言い切れない。

 ウイルスは一般に、変異を繰り返すたびに感染力は高まる一方で、弱毒化していくものだからだ。いわば“ウイルスあるある”である。