今回は、クラスター対策とPCR検査について分析する。過去の対応でPCR検査が遅れた理由は、感染症学者と厚労省が検査の拡大に反対したことにあるようだ。安倍首相(当時)と政治力を持つ医師会がPCR検査を拡大すべきだと言っていたにもかかわらず、現場では一向に改善が見られなかったようだ(「増えないPCR検査 安倍首相が旗振れど、現場は改善せず」東京新聞2020.7.29)。その理由を分析するとともに、データを踏まえてPCR検査のあるべき姿を考える。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)
PCR検査拡大反対論者の4つの主張
反対の理由は、4つある。第一に、偽陽性者(陰性の人を検査ミスによって感染者と認定する)は無駄に医療資源を使い、また、隔離することも本人に無駄なコストを強いる、また、場合によっては人権侵害になるという主張である。第二は、PCR検査を受ける人が病院に殺到すれば、そこが感染の発生源になるという主張である。第三は、偽陰性者(陽性の人を検査ミスによって感染していないと認定する)は、むしろ安心して自由に行動させ、感染を広めるという主張である。第四は、「感染させているのは20%の人で、残りの80%の人は誰にも感染させていない」から、感染者とその濃厚接触者を追跡するクラスター対策だけをすれば良いという主張である。
私は、この反対の理由にまともに付き合って反論したのだが(原田泰『コロナ政策の費用対効果』ちくま新書、2021年、第3章)、現在はむしろ、役人は反対する理由を正直に言わないということに早く気が付くべきだったと思っている。感染症学者と厚労省の「反対の理由」への反論を含めて、本当の「反対の理由」への反論を述べる。
日本で検査数が増えなかった理由
第一の理由である偽陽性の問題は、ヒューマンエラーで生じるということで否定できる。PCR検査で、存在しないウイルスのRNAを存在するように検出することはあり得ない。ただし、検査機器の汚染などで偽陽性が生じることはある。手作業のPCR検査を熟練でない技師が行えば間違いのオンパレードになるだろう。
急には熟練者を増やせないからできないというのは正しい。しかし、世界では、自動PCR検査装置で検査をしていた。機械の操作であれば、それほど熟練は要しないので、いくらでも検査が可能だ。日本以外の国々では、機械で大量に検査していたのである(「日本生まれ『全自動PCR』装置、世界で大活躍 なぜ日本で使われず?」TBS NEWS23 2020.6.29、田島秀二「迅速で正確なPCR検査体制を」日本経済新聞2021.12.16)。