立ち込める政治の臭いを消し去るスポーツの力を信じたい

 バッハ会長は彭帥氏へのアプローチについて「静かなる外交」という言葉を使った。戦って勝ち取るための外交ではなく、相手も認め、自らも認められる道を探る外交である。それがスポーツ外交の真髄である。

 今、私の手元に東京都から送られてきた「東京2020のコロナ対策に関する資料」がある。東京2020のコロナ対策の取り組みを各種エビデンス資料を添えて総括している。そこには東京2020大会がもたらした価値として、「コロナによって分断された世界を、スポーツの力で一つにした大会」と掲げられている。それがなぜかじわじわと心に染みる。

 東京五輪も北京五輪も政治の臭いが立ち込めている。スポーツがその中で謙虚に仕事をしているように思えるからか。世界のトップアスリートたちがベストパフォーマンスを見せるとき、政治の臭いはスポーツの匂いに変わる。東京五輪がそうであったように、北京五輪も選手が政治を超えたメッセージを世界の人々に届けてくれるはずだ。私はまだオリンピズムへの信仰を捨てない。

 パリ2024の開会式演出のプレゼンテーションが与えた衝撃的な爽快さは、それがスポーツのスポーツによるスポーツのためのオリンピックを目指しているからだろう。