文大統領の対日姿勢の変化と
韓国司法界の分断

 こうした司法の判決が大きく分かれる背景には文大統領の姿勢の変化と司法界の分断がある。

 文大統領は昨秋以降、対北朝鮮関係で米バイデン政権の協力を得るために日米韓協力を強化する必要性を感じたこと、そのためには日韓関係を改善する必要があること、8月の東京オリンピックの機会を利用して北朝鮮との対話を模索していることなどの理由によって日本に歩み寄る姿勢を見せ始めていた。

 それでも元慰安婦や元徴用工の問題を、韓国独自の解決ではなく、日本政府との外交協議で解決しようとしていた。

 また、韓国社会の分断が保革の対立ばかりでなく、世代間、男女、貧富の分断など広い範囲に及び複雑化しているが、こうした分断が司法界にも波及している。その結果、国際法を重視する裁判官と、弁護士団体「民主社会のための弁護士会」に近く国内法を重視する革新系の裁判官とで、主張がはっきりと分かれてきている。

 文政権の日本への歩み寄りの姿勢やソウル中央地裁の判決に日本はどう対応するのか。

 日本は「あくまでもこれらの問題は韓国独自に解決すべき問題である」として突っぱねている。これに対し韓国は「自分たちは日本を許し歩み寄ろうとしているのに、日本がかたくなである」として反発している。こうした行き違いが新たな対立の火種となっている。