「Z3 Mロードスター」がもたらす
昔ながらの喜び

 さて、長いノーズが印象的なBMW「Z3 Mロードスター」を見てみましょう。ドイツで設計され、アメリカで組み立てられた「Z3」に積まれた3.2リッターの直列6気筒エンジンの力で、ストレートを気持ちよく駆け抜けて行くことができます。後発型のモデルには、より強力な315馬力のS54エンジンが搭載されていますが、だからと言って、この「Z3 Mロードスター」のパワーが足りないということではありません。「これもまたBMWが誇る美しき直列エンジンであり、あらゆる次元において興奮を提供してくれます」と、ブラウン氏は目を細めます。

 5速マニュアルの操作には、スリルが伴います。ひと癖あるシフトチェンジと非純正のクラッチは、この「Z3 Mロードスター」のシャシーが「拒否反応を起こすのではないか!?」と心配になるほどです。ステアリングは比較的緩く、そのダイナミズムはスポーツカーというよりむしろスポーツセダンに近いものですが、鞭(むち)を打てば見事に実力を発揮してくれます。「Z3 Mロードスター」は昔ながらの歓びを与えてくれる、昔ながらの「ロードスター」なのです。

「『S2000』からこのクルマに乗り換えて気づかされるのは、フロントの重さに比例して増えるハンドル操作の回数です。ずっと走らせているうちにフロントの重心の偏(かたよ)りと落ち着きのないステアリングラックにも慣れ、スライドさせつつコントロールできるようになりました」というのが、シルベストロ氏による結論です。

ストイックなほどに
走りに忠実な「S2000」

 最後は、庶民の最高の味方ホンダ「S2000」の登場です。徹底的に無駄を省いた初期型の「S2000」には、トラクションコントロールなど装備されていません。この時代のホンダであれば、ポルシェやBMW とは異なり、2000年代のハイテク指向に侵されていないのです。まるで、「走ること以外には興味がない」とでも言わんばかりに、ラジオはのっぺらぼうのカバーパネルに隠されています。

「平和と静寂を好む『S2000』のオーナーなどいるはずがない」というのが、ホンダの信念だったのかもしれません。が、トップギアは極めて繊細に仕上がっています。6速で回転数を4500rpm程度に上げれば、時速80マイル(約129キロ)でエンジンから叫び声が放たれます。地球上でこれ以上の6速マニュアルとお目にかかる機会など、そうはないのではないでしょうか。

 夢にまで見たビンテージスポーツカーのドライビングエクスペリエンスが、このハンドルを握るだけで現実のものとして手に入るのです。「S2000」は極めてシャープなターンイン(編集注:直線から旋回へと移行すること)と、その絶対的な精度には目を見張るものがあります。このクルマがつくられた当時のパワーステアリングだからこそ、すべての負荷をそのまま手元に感じることが可能です。これは、文句なしに「素晴らしい体験」と言えるでしょう。

 その後、ステアリングリモコンを採用したことで、「S2000」も近代的なスポーツカーとして生まれ変わりました。最大馬力240hpという数字は8300rpmに達して初めて発揮されるもので、BMWやポルシェと比べてかなりの時間を要します。9000rpmからがレッドゾーンですが、ここまで引っ張れば神々しいほどのクレッシェンドに包まれます。この「S2000」に未来的な要素など一切見受けられませんが、サーキットではドイツ車の2台より何年も先を行くクルマではないかと感じられ、思わず顔がほころびます。