自殺ほう助が認められている
スイスの法的根拠と三つの条件

 私は安楽死が容認されたオランダの事情を取材したことがあるが、背景には徹底した国内議論と幼い頃から教育を通して育まれる個人の自己決定能力重視があったことが印象的だった。「安楽死」より、自分の最後は尊厳を失う前に自らが決断する「尊厳死(death with dignity)」と呼ぶべきだと私は思う。

 スイスでも、医師が患者に致死薬を直接投与することは法律で禁止されている。だから、医師から処方された致死薬を患者本人が自分の判断で点滴のバルブを開けるか、口から飲んで死に至るのだ。

 スイスで自殺ほう助が認められている法的根拠は刑法115条の「利己的な理由で他者の自殺を誘導・手助けした者は罰せられる」という条文だ。つまり利己的でない自殺ほう助は違法ではないという解釈だ。

 自殺ほう助を受けるためには、まず認定団体に会員登録することが必要となる。その際、医師の診断書やなぜ、自殺ほう助を希望するのかという身上書を提出する。それを専門医が審査し、認められて初めて許可が下りるのである。

 申請から実際の自殺ほう助まで数カ月かかる。当日は団体の「自殺付添人」が患者の元に致死薬を届け、最後の瞬間まで患者本人や家族に寄り添う。国内居住者は実施場所に自宅を選ぶ人が多いという。

 スイス最大の自殺ほう助団体エグジット(1982年設立)の会員数は年々増加して、2019年末で12万8000人に達している。国外居住者を受け入れている団体もある。

 患者の年齢は問われないが、自殺ほう助を受けるためには厳格な条件を満たさなければならない。通常の条件は以下の三つだ。

1.治る見込みのない病を患っている
2.自殺ほう助以外に緩和できない耐え難い苦痛や障害がある
3.健全な判断力がある