米国の対北政策は
八方ふさがり

 今年11月には米国で中間選挙が行われるが、米国のバイデン大統領は、中国との対立、ウクライナ情勢の緊迫化、国内物価の上昇に対する国民の不満などにより、支持率低下の苦境にある。

 このため金正恩総書記は、北朝鮮がモラトリアムを停止すれば、バイデン政権は北朝鮮政策の失敗も背負うことになるので、それは望まないと考えているのかもしれない。それが瀬戸際作戦へと結びついているのだろう。

 金正恩総書記は、バイデン政権は「いつ、どこででも会い、どんな話もしよう」と無条件対話を提案する一方、「北朝鮮の行動変化がなければ制裁を断固維持する」という原則に基づき、北朝鮮のミサイル発射に対して独自制裁と安保理による制裁の追加に取り組んでいると見ているようだ。

 冒頭で触れた金正恩総書記の今回の発言は、北朝鮮が挑発の再開を念頭に置き、米韓に「より果敢に譲歩せよ」とのサインを送ったものだろう。

 しかし、金正恩総書記の期待とは裏腹に、支持率が低下し、中間選挙の展望も芳しくはないバイデン大統領としては、国内政治的にも、譲歩する姿勢を見せることはできないだろう。北朝鮮が実際にICBM発射などを再開した場合、バイデン政権の最も現実的な対応は、独自制裁や安保理制裁の一層の強化であろう。

 安保理制裁については中国やロシアの壁がある。2017年12月に採択された安保理決議第2397号は、自動追加制裁につながる「トリガー条項」が含まれているのでこれを足掛かりにしたいところである。

 これによれば「北朝鮮が核実験やICBM発射を行う場合、安保理は北朝鮮に対する石油類輸出を追加的に制限する措置を取ることを決定する」と規定されている。これは拘束力を持つ義務条項である。しかし、現在の中国の態度からして、実効性のある決議となるかは中国次第である。

 北朝鮮は中国のこうした姿勢を予測し、強く出ているのであろう。現に中国は20日の安保理で、北朝鮮のミサイル関連者を安保理の制裁対象に追加しようとした米国の提案の採択を延期させた。