喉頭がんを放置すると、最悪の場合声帯を摘出しなければならず、声を失う恐れも。もちろん「がん」なので、全身に転移すれば命も落としかねない。

「声のかすれが現れたら、喉頭がんのほかにもさまざまな病気が考えられます。多い病気ではありませんが、『反回神経麻痺(まひ)』という、比較的突発的に声がかすれる病気があります。反回神経という声帯を動かす神経が圧迫されて麻痺してしまうのですが、反回神経の通り道には肺、甲状腺、食道があります。これらの部位のがんが神経を圧迫して麻痺させるケースもあるため、『たかが声のかすれ』と侮れない病気です」

 反回神経麻痺は完治しやすく、死亡リスクが高い病気ではない。だが、その麻痺の原因にハイリスク疾患が潜んでいる可能性は、とくに高齢者で高くなってくるため注意が必要だ。

 死亡リスクでいえば、日本人の死因で、がん、心疾患、老衰、脳血管疾患に次いで多いのが「肺炎」だが、そのなかでもとくに多いのが、声帯の閉鎖機能を含めた嚥下機能の衰弱が原因で起こる肺炎だという。

「声帯が衰えると物を飲み込む嚥下(えんげ)機能も低下し、本来口から食道へ入るべきものが気管に入ってしまう『誤嚥』を起こします。誤嚥が繰り返され、細菌などが気管から肺へ吸引されてしまうと、『誤嚥性肺炎』に発展しかねません。嚥下機能が落ちる最大の原因は加齢ですが、高齢になっても首周りの筋肉のトレーニングを怠らなければ、誤嚥のリスクは抑えられると思います」

 老木氏は「女性では50歳前後から声の質に影響する唾液分泌量が低下し始め、男女とも50歳ごろからがんの発症リスクが高まるので、“50歳”を一つのボーダーラインにしてみては」とアドバイス。ミドル世代こそ、自分の「声」に注意深く耳を傾け、病気のサインを聞き漏らさないように気をつけよう。